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貝殻

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一時間程、あの店には居ただろうか?味は悪く無かった。でもそんな事とは別の次元の中でふたりは存在し、ふたりの内面を解かり合おうとしてたかの様だった。とどのつまり、こうだ。「葉子は葉子の生活が在る様だが、決して孤独では無い様だ。プライベートの充足とでも謂うべきか、決して悲壮感に暮す内面の構築にわたしとの関係でわたしを巻き込みそういう感じを共有したくはないようだった。だからこそ店でのふたりだけの内面的世界ではむしろ悲壮よりも楽観を感じた。きっと葉子自身もそうだったと思う。飲酒のせいもあったかも知れない。ただ、日々つきまとう暗黒の影をだれかしらも垣間見せる様に、葉子やわたしもあの店の中でそれを避けるのは不可避で、やはり、幾度かはその姿を相手に感じさせることに不本意ながらあった。でもそんなことはどうでもいい。あの店でのふたりの内面は外観や見栄え世間体、又、プライド、エゴとは無縁のところから全てが発せられ包み隠さない心理を交換し合えていた。そこにふたりの店の空中にでも存在した、意識相互のもたれ合いが店のだれにも気付かれることも無く、まして外界のだれにも気付かれず、外界のだれもが一度として経験したことのないふたり独自で人類初の心理面経験対談ができた訳だ。と謂っても、こういう独自心理対談は関係がある数だけ星の数より多くひとの数・組み合わせの発生した数だけ存在し、似たようなのも在り、増長の種となるべきネタではない。それだけを心掛けて置けば良い。ただ、心地は良かった。増長は全ての人間から要注意とされ取り置かれる諸刃の剣なんだから。」ふたりは、街道にでた。駅へ向かいなんとなく歩き出した。
「足元だいじょうぶかい?少し覚束無いけど??」とわたし。
葉子はぐったりしている様子だった。仕事の終わりの週末金曜ということもあったろう。長い時間強引に食事等さそわなきゃよかった。
「だいじょうぶよ?私、でも眠くなったは。帰りの電車内では寝るかも・・。乗り越ししなきゃいいけど。」
「まぁそこは助言らしいのは思い付かないけど、また月曜日に元気な筧さんの仕事ぶりで確認するよ。今夜が悪くなかったってこと。それが俺を安心させるよ。いいお店だったね。またつぎに機会有れば、行きたい箇所でもお互い暇で息抜きしたいとき探しとこうか?まぁこうしてオフの機会を得れ、俺の出世も筧さんが理由となり渡ってくるといいなあ。」
葉子はなにやら上手いコメントを返そうとしばらく沈黙して考えていたが、不意にこう謂った。
「今日は食事代持って貰い、ありがとう。美味しかったは。持たれ通しの人生も悪く無いなー。」
それがどういう意味をもったのかわからないが、葉子の真意はただ、奢って貰ったことへの洒落た台詞であるとそのときは思ってしまった。
「じゃ、また月曜に。おつかれさま。」とわたし。
「はーい。」と葉子。
不吉な予感に取り付かれつつこの曇天の空のようにわたしは黙々と雲の動く速度に合わせ、駅を目指した。わたしは帰宅の電車内、不意に家にある以前購入した、古いDVDをみたくなった。タイトルは「モダン・タイムス」。
帰りの車内では映画のこと以外にこういうことも考えた。
「店で葉子を可愛いとか可哀想とか思ったのは、葉子が失われるからではないか?最近の葉子は以前の葉子と変化はあるにせよ、オカシイところは見受けられない。異常性は感じられない。だが、何かが妙に漠然と不安に引っ掛かる。何か得体の知れないなにかが僕を不安へ掻き立てる。どうも女と対面すると積極的にそういう箇所を聞くに聞けない。どうしたらいいんだろ?取り越し苦労なら、いいが。」
DVDの「モダン・タイムス」は文明に振り回される、人類を主人公の役者が演じる大作だ。主人公の滑稽な演技で笑い、文明に振り回される愚かさや悲壮、かえっての不便さや見失うものの多さ・大きさを悲壮から滑稽に演じられている。滑稽なシーンのみならず機微的な悲壮の場面でも何故か何度観ても苦笑いせざるをえない。訴えかけてくる製作した人々の意図以外の感情をもつのはちょっとした優越感に毎度観る度に浸る。穿った側面からわたしはこの映画をみることに長けている様だ。長くは成った。こういう穿った面から物事を観察することに慣れる時間的スパンの受忍限界ラインが。
仕事や私生活でもこうありたいものだ。いつもクールにだれも出来ぬ視点からものをみれる自分、そういう点を目指してみよう。とこのとき確信を抱いた。風呂に入りながら、観終わったあとの映画のおさらいを感覚的に行ってみた。まぁ、いつもすることなんだが。同時進行でストーリーを含蓄奥まで考えれるほど頭はよろしくないようで・・・。
さて、日が変わってしまったが、土曜は何をしよう。そんなことを考えつつわたしは眠りについた。出世という夢に取り憑かれてしまったようだ。ちょっと修正せねば、足元を見失うのは葉子のこともそうだが、大事な物・者を失いそうで怖い。そう、慎重に緩やかにゆとりのように、激しくもあり、情動的に。感情に身を任せつつ時には理性のエッセンスも効かせ、メリハリをたもちつつ、充実の・・・。世界を。
半分まどろみの中そんなことを考えわたしは寝入って行った。眠りの最中外界では、いろんな事件が起こって居た。またメディアが騒ぐほどの。課増がそれに気付くのは朝だろうか?世間の流れと同調するかのように課増は何も知り得ずただ睡眠欲を消化していた。明るい朝を待たず、そんな予見もせずに、ひたすら、寝息を世間の雰囲気と同調させながら・・。同調は妙に苦しそうで、課増のみならず、世間もそう、課増の寝息の同調と同様苦しげだった。そう願いたいものだ。全てはうまく行くものと・・・。
夜の闇が長くつづく、冬。11月にしては暖かいが、そこには暗黒の極寒の予感さへ漂う、不思議な別の空々しさが在った。冬に敢えて、温もりや賑やかを求めるのは冬季節に対して酷だろうか。否、そうではない。冬は冬で夏の前提とも謂うべき、積極な予感を含んだ、ひとびとの寒さへの飽くなき抵抗の熱が籠められて進む。そして、課増自身にもその抵抗・熱意・奮闘が混在していた。
課増健次郎は朝7時に自然に布団の上で、横に向いた状態で寝返りをうつ、格好で目覚めた。
「あぁ、寝足りないな。」ぼそっと、わたしは気だるく叫んだ。そう、昨夜は葉子のバイタリティを日頃にあるような量を感じ得なかったんだ、なぜかそこがちょっとだけ気になり、解決出来ずに寝た、自分がもどかしかった。やはり葉子は自身も気付いて居ない変化が生じている。それは同僚として注意、留意するよう図らうべきであろうか?そんな結論も出そうに無い事に考え思索を巡らし、わたしは、朝食の準備をすることにした。キッチンに向かう前にテレビをいつも通り点けてみた。調理の前ニュースの報道が音だけだが、映像なしに情報がわかる範囲で耳に入ってきた。あるキャスターが怒り口調でこう云う。
「昨夜、9時半過ぎ、栃木県今市市JR日光線の鉄道で脱線事故がありました。現在、事故の回収作業中で、死傷者は・・・・・・・。」
作品名:貝殻 作家名:ぴろ色