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てっしゅう
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「神のいたずら」 第一章 始まりと嘆き

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「何言っているんだ。夫婦だろう・・・気にする事ないよ。それよりゆっくりと休みなさい。碧には俺も弥生も付いているから」
「はい・・・そうね。家族だもの・・・大切な家族だもの」

碧の身体から一つの魂がすっと天に昇った。呼吸と脈拍が停止して医師たちは電気ショックと心臓マッサージを始めた。
「碧!碧!頑張れ!死ぬな!」「碧!死んじゃいや~」父の秀之と弥生の声がガラス越しに聞こえた。
「ダメか・・・頑張れ!碧ちゃん!」医師は懸命に続けた。

ピッピッ・・・鼓動が再生し始めた。
「やった!蘇生したぞ!」医師の大きな声を聞いて秀之と弥生は抱き合って喜んだ。

碧自身の魂は天に召された。代わるように隼人の魂が約束どおりに戻されて、命を取り戻した。

隼人は自分の意識があるところに向かってスーッと降りてゆく感覚の中で、一つの違う意識を感じた。すれ違ったという感覚に近かった。
はっきりとは見えなかったが自分と同じような魂のように感じられた。

大きな声で自分を呼んでいる声が聞こえた。やがてその声ははっきりと確認できる大きさで耳に届いた。

「碧!碧!聞こえるか?パパだ・・・弥生もいるぞ」
「碧!弥生だよ、聞こえる?返事して・・・」

何か自分じゃない人を呼んでいるのだろうか・・・隣に同じように横たわっている誰かがいるかも知れないと、隼人は思っていた。薄っすらと目が見えるようになってきた。
マスクをした二つの顔に覚えはなかった。

「碧、見えるか?パパが解かるか?」
パパ?誰の?俺の親はお前じゃないぞ・・・そう言いたかったが声が出ない。身体も動かない。痛いのではない、もちろん苦しくもない。ちょうど金縛りに遭っているように、動かせないなのだ。

「お父さん、目が醒めたとはいえこんな状況ですから意識は多分朦朧としているはずです。少し時間が経ってからお呼びしますので、ひとまずは奥様の病室にお戻り下さい」医師はそう促した。
「俺は朦朧となどしてないぞ・・・動けないし声が出ないだけだ」
「碧さん、医師の及川と言います。大丈夫ですか?話さなくて構いませんから、解かったら私の手を握ってください」そう言って手を繋ぎ、会話を始めた。

「痛くないですか?」・・・どうしろと言うのだ?痛くなかったら握り返せばいいのだな・・・
「はい、そうですか。良かったですね。では、ここは病院です、わかりますか?」・・・「はい、解かりました。では、ブザーを渡しますから握ってください・・・そうです。
心配や気分が悪くなったら押して知らせてください。焦らずにゆっくりで構いませんから、今は休んでください」

天井の蛍光灯の明かりがもうはっきりと見えるようになってきた。両手両足は曲げられる程度に動かすことが出来た。
何か今までとは違う感覚に襲われた・・・小さくなっているように思うのだ・・・痩せてしまったのだろうか?やがてそれは信じられない事実を突きつけられることとなる。

隼人の遺体は両親に引き取られ、無念の帰郷をした。通夜を済ませ葬儀も終わり、失意の中で恋人前島優は出棺を見送った。
今は、とても辛くて骨を拾うことが出来なかったから、一人葬儀会場で両親と妹の帰りを待っていた。この4月からやっと教師として中学校に赴任する喜びも吹っ飛んでしまった。
同じ教員を目指す隼人との結婚も果かなく消えてしまった。どうして良いのか解からないままにもう胸がいっぱいになって、ただ泣くことしか出来なくなっていた。

隼人の両親が戻ってきて、優の傍に駆け寄った。
「優ちゃん、ゴメンね・・・こんな事になって・・・辛いわよね・・・ごめんねほんとうに・・・許して」母親の裕子はそう言って、頭を下げた。

「おば様・・・頭を上げてください。そんなに仰らないで下さい。お辛いのは私以上でしょうから・・・私は何とか気持ちを立て直して仕事を始めますから、ご心配なさらないで下さい。
それより、おば様が心配です。おじ様や結衣ちゃんと励ましあって頑張って生きてくださいね。隼人さんとは短い時間でしたが幸せでした。感謝しています。一生忘れずに生きてゆきますから・・・」
「ありがとう、優ちゃん。貴方は自分の幸せを探してね。隼人はもういなくなったから、忘れていいのよ。今まで優しくしてくれてありがとう・・・ありがとう・・・もう会えなくなるね・・・本当にありがとう・・・」
裕子は何度も何度もそう言って別れを惜しんだ。

最愛の息子を亡くした悲しみ・・・そして自分と同じように傷つき悲しみを抱く優を思うと決して離したくはなかったが、他人の幸せを奪う権利はない。
優には新しい恋人を一刻も早く見つけてもらって傷を埋めてもらうしか救いはないと裕子は別れる決意をした。

「さようなら・・・優ちゃん。今度は笑顔で会えるといいね。仕事頑張ってよ」
「ありがとうございます。おば様も頑張って下さい」

永遠の別れではないにしろ、もう会うこともないだろうと優は思っていた。東京へ向かう新幹線の車窓から事故の現場近くに目がいった。
「隼人・・・どうして私を残して死んだの。残酷だわ、ねえ?どうすればいいの?違う人なんか見つけられない。あなたが全てだったのよ・・・隼人」


「わーっ!」大きな声が集中治療室から聞こえた。

「どうかしましたか?碧さん」
「俺は碧じゃない!何で女の身体をしているんだ?教えてくれ、先生?」
「落ち着いてください。今ご両親を呼んできますから」
「俺を見ていた人は両親じゃない!本当の親は名古屋に住んでいるんだ。連絡をしてくれ!」
「何を思い出したのか解かりませんが、とにかく落ち着いて待っていて下さい」

及川医師は、由紀恵の病室に行き、父親の秀之と姉の弥生、それに由紀恵も呼んだ。治療室にいた碧が目を覚ましてはっきりと話す様子に驚きそして喜んだ。

「碧、ママよ、よかったわ気が付いて・・・心配していたのよ」
「誰?碧ってこの子?」
「何言ってるのよ!あなたのことじゃないの」
「俺は隼人だ。碧じゃない。話していて変だって思うだろう?」
「先生?どうなっているのでしょうか?気が変になってしまったの?ショックのせいで・・・」

及川はその可能性は否定できないから検査をしてみると言った。
「先生、検査なんかしても何も出ないよ。身体は異常ないし、精神も異常ない。変なのは、何で俺が女なんだっていう事!なあ、教えてくれよ」
検査が終わるまで秀之と弥生は自宅待機にした。由紀恵は健康状態を見て退院しようとなったのでひとまずは病室に戻った。
明日の検査を前に隼人は考えていた。何故女に変ってしまったのか・・・夢じゃない、現実に起こっていることだと信じるしかなかった。回診に若い女性の看護師がやって来た。

「碧ちゃん、具合はどう?痛くなったり、怖くなったりしてない?」
「碧じゃないってば・・・この子が話しているような感じじゃないだろう?聞いていて」
「もう、まだそんな事言ってるの!お母さん悲しむわよ。あんな事故に遭って、奇跡よ助かったことが・・・素直に感謝しないといけないわよ。たくさんの人が死んだんだから」
「俺は覚えてないけど、そんな大きい事故だったのか?」