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てっしゅう
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「神のいたずら」 第一章 始まりと嘆き

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第1章 始まりと嘆き 

春の嵐なのか、深夜の東名高速道路は激しい雨風になっていた。定期路線バスは大阪から東京に向かって満員の乗客を乗せて静岡県内を走行していた。

小野碧は母親の実家に遊びに来ていた。春休みに入って4月からは新一年生になるからとお祝いを買ってもらえる事が楽しみだった。
「由紀恵、雨が降り出してきたから、帰るのは明日にしないか?」父親の新一郎は帰り道の心配をした。
「お父さん、大丈夫よ。碧の中学に要るものを買いに行く約束を友達としているから、ねえ碧、そうだったわよね?」
「うん、葵ちゃん家に来るって言ってたよ」
「そうね、バスで帰るから、朝着いたらその足で買い物しようって約束していたっけね」

22時発の夜行バス乗り場まで、新一郎は車で送って行った。可愛い孫の碧と離れる事は寂しかったけど、それ以上にこの台風のような大雨が気にかかっていた。
バス乗り場にはすでに乗客が並んで待っていた。ほぼ満席の状態で定刻通りに新宿に向けて出発した。

母親の名前は小野由紀恵42歳。中学に進学する碧12歳と高校三年に進級する弥生17歳の二人の子供と夫秀之45歳の家族である。大阪を出て4時間が過ぎていた。
時計を見ると午前2時を少し回ったところであった。寝付かれない由紀恵は隣の席でぐっすりと寝ている碧の髪を撫でながら、春からの中学校で上手くやって行けるか不安げな気持ちであった。
姉の弥生は成長が早くすっかりと女らしくなっている。それに比べて碧は12歳とはいえまだ少女の身体のままであった。
幼い顔つきからしてどうしても中学生には見えないと思えるから、みんなと仲良くやって行けるのか心配だったのだ。

バスは日本坂トンネルに入った。窓を打つ激しい雨音は消えていた。しばらくしてふと外を見るとなにやら薄明るい感じがした。それから間もなく急停車した。
寝ていたみんなが目を覚ました。
「どうした!」「何かあったのか!」運転手にそう叫んだ。


高橋隼人26歳は恋人前島優25歳とのデートを終えて、自宅に戻る途中だった。折から激しい雨になって視界が悪い。名古屋に住んでいた隼人はネットで仲良くなった優と3年間交際を続けていた。
優が今年晴れて4月から都内の中学に赴任する事が決まり、なるべく早い時期に結婚したいと隼人は考えていた。

午前2時を回り更に雨脚は強くなり東名高速は見通しが悪くなっていた。日本坂トンネルに入る手前でスリップ事故を起こしたトラックが停車していて、慌ててブレーキを踏んだ。
次の瞬間激しい衝撃を受けて意識を失った。

この事故を見ていた反対車線のトラックがガードレールに接触して慌ててハンドルを切った瞬間横倒しとなり、後続の車が数台追突する大事故が起こった。
やがて追突した車から炎があがり瞬く間にトンネル内に煙が充満した。

碧と母親を乗せたバスは引き返せない状況から、バスを降りてトンネルの外に逃げ出すように運転手が指示した。何台の車からも同じように逃げ出す人がたくさん居た。
長いトンネルの出口はなかなか見えなかったが、黒煙と爆発音が聞こえる状況で悲鳴をあげながらの逃避行となっていた。
更なる悲劇は次々とトンネル内に入って来た車が急ブレーキを掛けてスリップし前の車に追突する悲劇だった。
反動で壁面にぶつかる車に轢かれたり、身体を飛ばされたり、さながら地獄のような光景が起こり始めていた。

消防車と救急車が来たときにはすでに数人の死亡者が出ていた。由紀恵は碧の手をしっかりと握り締めていたが煙をたくさん吸っていた二人は意識の無いまま病院に収容された。
集中治療室にいる妻と次女を見て祈るように手を合わせている秀之の姿があった。長女の弥生も同じように泣きながら手を合わせていた。

隼人は見つけ出されたときにはすでに事切れていた。地下の霊安室に静かに寝ている姿は孤独であり、朝方に駆けつけた両親の深い悲しみを誘った。
魂になった隼人は目の前に見えるボーっとした明かりに意識を集中していた。「なんだろう?ここはどこなんだ?」言葉に出せないもどかしさを気持ちで念じてそう言った。

わずかに見えていた明かりは強く輝くようになり、隼人に近づいてきた。恐怖には感じられなかったが、強い束縛感を覚えた。
「高橋隼人、君は魂に変った」
「魂?死んだの・・・ボクは?」
「人はそう呼ぶ。魂は永遠だ。今から私が導く所へ来なさい」
「一人なのか?誰もいないのか?」
「孤独ではない。見えなくても感じる事は出来る。今日もたくさんの魂がやってくる。君は特にエネルギーが強い。修行すれば人の身体に戻る事はないようにしてやろう」
「ボクには恋人がいる。彼女とお別れをしていない。あなたにそんな力があるのだったら、元の身体に戻してくれ!頼む」
「君の身体はすでに修復不可能になっている。戻す事は出来ない」
「じゃあ魂のままで戻してくれ」
「それは危険だ・・・戻って来れなくなるから」
「戻って来れなくても構わない、ひと目彼女に逢ってここにいることを話したい」
「それは無理だ。知ってはならない世界だからだ。君の強いエネルギーは過去に持った人間の徳がそうさせている。ここに来れたのは偶然ではない。
そのエネルギーが強かったからだ。殆どの魂は下の世界から修行をする」
「頼む聞いて欲しい。ボクを戻してくれ・・・ひと目逢えたら何も言わないと約束する。それで全てが消えても後悔しない」
「何度言わせるのだ。無理だ・・・魂は人の身体に入らないと消え去る運命にある。君の強いエネルギーは死者をも蘇らせる事が出来る。
但し肉体が壊れていないことが条件だ。新しい肉体を見つけて中に入ることで蘇生は叶う。但し一度だけだ。そしてこの記憶は消される、いや失くすと言おう」
「死体を見つけてその人に成り代われと言うのか?」
「自由に選択は出来ない。強く希望するなら誰かの肉体に届けるであろう。猶予はない。希望するか、私についてくるかの選択をしなさい。これは特別の計らいだ」

訳の解からない事を言われた隼人だったが、未練があったので元の世界に戻してもらうことを選んだ。

事故から24時間が過ぎて集中治療室にいた由紀恵は意識を取り戻した。医師が駆け寄って確認する。
「気が付かれましたか?ここは病院です。ご安心下さい。私がわかりますか?」
「は・・い・・・おぼろげに見えます・・・娘は、碧は何処にいますか?先生・・・」
「まだ意識が回復していません。もう少し様子を見させてください。それよりお母さんは病室に移させて頂きますのでご了承下さい」
「娘の傍がいいんです!ここに居させてください!」
「それは無理です。次の患者さんのために空けておかねばなりませんから・・・」

小さな二人部屋に移された由紀恵は自分のことより碧の意識が戻らないことを案じていた。傍にいる夫に強く手を握られて押し寄せる不安を何とか我慢していた。
「ママ、大丈夫よ。碧は死んだりしないから・・・元気出して早く気がつくように祈ってあげましょう」
弥生は母にそういって励ました。

「弥生、ありがとう。そうよね・・・死んだりなんかしないわよね・・・私が助かったんだから、あの子もきっと助かる・・・あなた、心配掛けてごめんなさいね」