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てっしゅう
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「愛されたい」 第四章 研修旅行と淑子の嫉妬

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「何言ってんだよ!こんな話ばっかりしているのが家族なのか?父さんと母さん口開いたら喧嘩しているじゃん。何で?父さん、母さんのどこが気に入らないの?」

珍しく高志は伸一に反発した。自分で抑えていたのかも知れない。

「母さんは・・・うそをついた。それが許せない。謝って欲しかった」
「済んだことなんだろう?蒸し返すなよ。男らしくない」
「誰が男らしくないんだ!高志!お前は男らしいのか?」
「俺はどうでもいいじゃん。父さんが反省することだよ」

高志は有里から智子が伸一と仲が悪くなった理由を聞いていたようだ。今そのことを智子は知った。恥ずかしさとは逆に高志の力強い言葉が嬉しく感じられた。

ご飯の途中で夫は席を立って自分の部屋に行ってしまった。残された3人はしばらく黙っていたが、高志が智子に向かってポツンと言った。

「母さん、父さんはダメだよ。離婚したら?おれ着いて行くから。大学はいいよ、働いて一緒に暮らせばお姉ちゃんの学費ぐらい何とかなるよ」

智子はビックリした。そして高志の男らしさに涙が出てきた。
有里は高志の方を見て、「何かっこつけてるの、自分だけ。あんたは男だから大学に行かないといけないよ。お姉ちゃんが退学して働くから、心配しないで」
「二人ともありがとう。いいのよ、そんな心配しないで。お母さん離婚はしない。あなたたちのその気持ちだけで我慢して行けるから。高志、大学へは行って、お願いだから」
「母さん、それでいいのか?まだ4年もあるぞ。その間こんな状態で続けて行けるのか?寂しくないのか?」

高志はどういう意味で寂しくないのか、と聞いたのだろう。まだ高校生なのに女心と言うか男女のことが解るのだろうか、そう思うと智子は恥ずかしさを隠せなかった。

「高志と有里が傍にいてくれるから寂しくなんかないよ。もう45歳だし、仕事も始めたから何かと忙しいしね。あなたたちは自分のことだけ考えて今までどおりやってくれればそれでいいのよ」
「浮気してやるといいんだよ、母さん。そうすると父さん慌てるから、なあお姉ちゃん?」

「高志!何てこと言うの。お母さんそんなことする訳ないじゃん」
「高志!まじめにそんな事考えたの?」
「母さんこの頃綺麗になったよ。息子のボクが言うのも恥ずかしいけど、まだまだいけるよ」
「まあ、高志ったら・・・嬉しいような、恥ずかしいようなことを言ってくれるのね。誰か好きな子が出来たの?」
「なんでそうなるの?」
「だって今までそんな話なんかした事なかったでしょ。興味が出たって言う事は、お付き合いしている子がいるのかなあって思ったのよ」

「お母さん!高志に彼女なんて出来ないよ。ゲームばっかりやってる子に」
「お姉ちゃん!言ったな!」

この後智子はビックリさせられる。

「お姉ちゃんはボクの事解ってないね。これでも学校ではもてるんだから」
「また、ウソ言ってる」
「ウソなんかじゃないよ!失礼な。これ見ろ」

高志はそう言って携帯の待ち受け画面を見せた。そこには二人仲良く写っている写真が貼り付けてあった。有里はじっと見て、
「ふ~ん、可愛い子じゃん。クラスの子?」
「違うよ、下級生ニ年生だよ」
「じゃあ16歳って言う事?」
「もう直ぐ17だけどね」
「見えないね、もっと上ぐらいに見える」
「おっぱいだって大きいから」
「えっ?何それ?見たって言う事?」
「いけないの?」
「高校生でしょ!何してるの」
「お姉ちゃんそんな事言えるの?彼と最後までやっちゃったんでしょ?」
「やらしい言い方するのね!私は19歳よ。高校生のときはまじめだったんだから」
「何がやらしいんだよ。自分の方がやらしいくせに。ボクだって好きだからしたんだ。興味本位じゃないよ」
「向こうは下級生よ!無理やりしたんじゃないの?」
「バカ!ボクはそんな男じゃないよ。今度彼女連れてくるからあって話してみろよ。解るから」
「是非そうしなさい。お姉ちゃんがゆっくりと聞くから」
「なんだか嫌な予感がするけど・・・母さんにも紹介するよ」

あっけにとられて智子は聞いていた。
子供だと思っていた高志がもうそんなことをしているなんて知らなかった。自分への優しい気持ちはそういうことを知っているから出たのであろう。
息子と娘だとは言え、どちらも青春している事が微笑ましさを通り越して智子には羨ましく感じられた。

「高志、お母さん楽しみにしてるわ、あなたの彼女に会える事」
「うん、近いうちね」

夫とこんなことになっていなかったら、有里とも高志ともここまでの話は出来なかったであろう。そう智子は思った。

淑子と智子は同じ職場だったが、仕事をしている場所は違っていた。顔を合わせるのは昼休憩のときか帰りの更衣室ぐらいであった。それほど意識もせずに時間が過ぎていった。横井は自分の携帯のアドレスと電話番号をメモに書いて、「返信してください」と添え書きをして智子に渡した。この日、帰りのバスの中でどうしようかずっと考えていた。自分のアドレスを教えたら、きっと誘いのメールや電話がかかってくる。会社でも顔を会わせにくくなるし、自分が誘いに乗らないという自信も無いと思えたのでそのままにしておいた。

旅行の一件があって、淑子は思い切って横井を誘っていた。二人で会いたいというメールを送ったのだ。すでに社内ではちらほら噂話として聞こえていたから、横井にとって淑子と会ったり、親しく話したりすることはその噂を肯定することになってしまう。そんなことになったら、智子への誘いは二股に取られて絶対に断られる結果が見えていた。いい返事がまだもらえないとはいえ、横井の中では智子しか今は考えられない女性になっていた。

「返事が頂けないようですが、今週の土曜日に食事しませんか?」簡単な文章で淑子はメールを送信した。
「その日は都合悪いです。7月に予定している新製品の開発に忙しいので、多分会えません」
横井からの返事はいつも「忙しい」と「都合が悪い」の文句ばかりだった。淑子から見てそんなに忙しくしているようには見えない感じだったが、そう言われては我慢するしかなかった。

6月に入って、朝礼で11月の食品フェアーに出品する新製品作りをチームを組んで行う、と発表があった。メンバーは文子と淑子のベテラン経験者二名と、新人の智子が選ばれた。親会社からの派遣で専門の調理師とデザイン開発者が加わって5名のスタッフと担当責任者として横井の計6名でチームが作られた。

初めての智子には何をするのかよく解らなかったが、毎回必ずその年の新人が加わるという習慣は続けられていた。なぜなら、誰もが嫌がる試食を担当させようというものだったからだ。新人はその標的にされたのだ。横井が傍に来て、「智子さんの仕事は作った新製品の試食です。お腹がいっぱいになったら私が手伝いますから無理せず言って下さい」そう小声で言った。

淑子は横井が今まで誰にもそんなことを言わなかったのに、智子だけに言ったことを聞き逃さなかった。

「横井は智子のことが好きなんだ。私に連れない訳が解った。なによ、あの女。ちょっと若いからっていい気になって。覚えてらっしゃい・・・」