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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「愛されたい」 第四章 研修旅行と淑子の嫉妬

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「あなたそんな事気になるの?」
「本当なら、その方が課長のことを気にされているということですから・・・ちょっと」
「あなたまさか・・・」
「まさかなんですか?」
「いいけど、課長のことが好きな女性は、たくさんいるのよ。人気があるからね。あのルックスだし、独身だし、ね。あなただってその一人でしょ?」
「私がですか?何故そう思われるのですか?」
「勘よ・・・それより、さっきの話は淑子さんのことよ」
「ええ?淑子さんですか。そんな素振り感じませんけど、本当なんですか?」
「それも半分は勘ね。さっきね、あの人バスの中であなたのことじっと見てたのよ。課長があなたをチラッと時々見てたから、きっと気になるんだろうなあって感じたの」
「課長が私のことをですか・・・気付きませんでした」
「あなたにその気が無くても、課長は気になっているかも知れないから気をつけるのよ。行動には十分注意してね。全部の従業員を敵に回しかねないから」
「はい、ありがとうございます。そうでしたか・・・解らないものですね。まだまだ未熟かしら世間に」
「やっと気付いたのね。女は怖いのよ。色恋は大切なものまで壊すの。友達や夫や時に子供たちまで。失くして解るって言うけど、失くしたら困るものがあるから、心しておいた方がいいのよ。一時の寂しさを紛らわすことに大きな犠牲を払うことは無いのよ」
「文子さんは何か経験されたのですか?よくお解かりの様子なので」
「何人か見てきたからね。自分じゃないよ、友達とかここの従業員とかね。今はご主人のこと気にならないかも知れないけど、先になって大切な人に思えるかも知れないから、早まらないことね」
「大切な人に・・・夫がですか?お金の面以外では考えられないです」
「お金も大切なことじゃない。無くなったら生きてゆけないよ。誰も面倒なんてただで見てくれないんだから、違う?」
「そういう意味なら・・・そうですね」

横井に抱いているかすかな思いを見透かされているような文子の言葉であった。

6時になって、39人全員が大広間に夕食のために集まった。

智子は文子と一緒に早めに大広間に来て皆を待っていた。小さな舞台がある下座に席を取った。ほぼ全員が思い思いの席に座って宴会はスタートした。横井の挨拶がすんで、淑子が乾杯の音頭を取った。

「今日はお飲み物は飲み放題です。心行くまで楽しんでください」文子はそう言って、自分の席に座った。智子が「お疲れさま」と言ってビールを注いだ。ふと目の前を見ると、横井の前に淑子は座って同じようにビールを注いでいた。文子が言った言葉を思い出して智子は「そうかも知れない」と感じた。

淑子は智子の傍にやってきてビールを注ごうとした。
「すみません、私飲めませんので」そう断った。
「今日は泊りじゃない。少しは飲んだら?文子さんが介抱してくれるわよ」
「そんな事お願いできません。ゴメンなさい」
「私のビールが飲めないって言う事?」
「そうじゃないですよ。お酒が飲めないって申し上げているんです」

横から文子が助け舟を出した。
「智子さん、半分ぐらいだけ頂きなさいよ。後は断ればいいから」
「そうですか・・・ではそうさせて下さい」
「そうよ、智子さん、付き合いは大切にしないとね」

グラスに半分ビールが注がれた。ゆっくりと久しぶりに飲んだビールは苦かった。何とか飲み干してコップを伏せて置いた。
「少しは飲めるじゃないの。後は寝るだけだから良かったらもう少し飲んだら?」文子にそう勧められたが、すでに頭がふわっとしてきたので、断った。

食事が一通り済んで二次会の案内を文子は話した。
「この後8時からカラオケルームを予約してありますので、お好きな方はお集まりください。ただし定員は20名ですので満席になりましたらご遠慮させて頂きますのでよろしくお願いしますね」

淑子は横井を誘っていた。一旦部屋に戻った智子はビールのせいで頭が痛くなってきたから、カラオケは文子に誘われたが断った。

「じゃあ、私は行くから留守お願いね。先に寝るなら入り口締めておいてね。鍵は持って出るから」
「はい、すみません」

智子は敷いてあった布団で横になった。皆カラオケに出かけているのだろうか、隣から話し声は聞こえない。シーンとした部屋でズキンズキンする頭痛に悩まされながら、うとうとしてきた。

カラオケルームはほぼ満席になっていた。淑子は横井の隣に座ってビールを飲んでいた。二人とも酒は強いらしい。少し経って廻りをきょろきょろしだした横井は文子に向かって、「楠本さんは来ないの?」そう聞いた。
「ええ、少し飲んだビールで頭が痛いって寝ちゃったわ」
「誰が飲ませたの?」
淑子が間を入れずに、
「私が勧めたのよ。いけなかったの?」
「体質だから仕方ないわね。これからは勧めないであげて」
「コップ半分よ、情けない」
「淑子さん、飲めない人はそうなんだから、文子さんの言う通りだよ」
「課長は、智子さんの肩を持つんですね・・・好きなのかな?」
「何を言ってるんだい。仕方ないなあ・・・酔っ払いは」
「私酔ってなんかいませんよ。真面目に答えて下さい!」
「そういうところが酔っているって言うんだよ」
「課長は、直ぐ逃げる。私なんかの相手をするのが面倒なんでしょ!もういいわ」

淑子は怒ってカラオケルームを出て行った。文子が後を追いかけてなだめたが、そのまま自分の部屋に戻って行った。

「課長、淑子さん怒って帰ってしまいましたよ。もっとうまく相手しないといけなかったんじゃないんですか?」
「これだからご婦人は面倒なんだよ。聞き流せばいいことなのに、突っ込むから」
「課長は内緒ですが気付いてらっしゃるんでしょ?」
「何を?」
「何をじゃ無いでしょ!」
「文子さんまで怒るなよ。解らないから聞いているのに」
「もういいです。勘違いだと困るから」

横井は面倒な淑子より智子と話がしたいと正直思っていた。カラオケにも白けてしまって、早めに自分の部屋に帰ってしまった。

10時を少し回った時間に文子は部屋に帰ってきた。その物音で智子は目を覚ました。
「寝ていたの?ゴメンなさい起こしちゃって」
「いいえ、わたしこそ、うたた寝してしまいました。化粧落とさないといけないのでお風呂に行ってきます」
「頭はもう痛くないの?」
「はい、何とか大丈夫になりました」
「良かった。私は先に寝るからゆっくりと入ってきて」
「文子さんはお風呂入らないの?」
「うん、酔っちゃったから。洗面で化粧だけ落として寝るわ」
「じゃあ、鍵持って行きますから戸締りして寝てください」
「解った」

エレベーターで下の階に降りて大浴場を探した。この時間はロビーも静かになっていた。行き交う人も無く智子はたった一人の入浴をしていた。露天風呂から見上げる夜空には大きな満月が見えた。その月明かりは裸の智子が十分に見えるぐらいだった。
「静かで気持ちいいわ。なんだか家に居るときとは別世界のよう。好きな人と一緒なら天国なのに・・・現実はそうならないのよね」独り言のように自分に話しかけた。

気持ちよさを残しながら大浴場を後にして部屋に戻る途中、自販機の前で横井と目が合った。