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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「愛されたい」 第四章 研修旅行と淑子の嫉妬

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「青木さんのご主人はどんな方なんですか?」
騒いでいたみんなが一瞬、シーンとなった。どうしたんだろうと周りを見渡すと、文子が喋り始めた。
「淑子さんのご主人は亡くなったの。まだ最近よ」
「知りませんでした。許してください」まずい空気が流れていたが、意外にも本人がこの気まずさを断ち切った。

「智子さん、気にしないで。知らなかったのですから。夫は交通事故で死んだんです。もう直ぐ一年になるの」
「お悔やみ申し上げます。残念でしたね、まだお若かったのに」
「そうね、同じ年だからね。55歳だったのよ。皆さんしらけちゃったわね。もうこの話は止めて次の話題にして頂戴」
「じゃあ、俺が聞くよ」横井が大きな声で言った。
「智子さんのご実家は武豊町でしたよね?偶然かも知れませんが、俺も実家は半田市なんですよ。何かご商売されているのですか?」
「課長、半田市なんですか!ビックリしました。お隣だったんですね。家は江戸時代から続く醤油の醸造元なんです。父と父の兄が経営しています。この頃昔のような景気ではないようですが、今の社長なったいとこがインターネットで通販を初めて順調に伸ばしているようです」
「すごいね。老舗のお嬢さんだったんだ・・・」
「お嬢さんだなんて、そんな事ないです。ただの田舎娘なんですから」

「智子さんは年齢の割りに、スタイルがいいから何かやられているのかしら、たとえばエステとか?」淑子が聞いてきた。

「エステには行った事がありません。週一回エアロビはやっています。運動しないと痩せられないって思いまして」
「十分痩せているわよ。必要以上にダイエットすると体調壊しますよ」
「いえ、痩せてなんかいませんよ。青木さんこそスタイルが宜しくて羨ましいですわ」

淑子が智子を気にする事には理由があった。夫が交通事故で死んだ時、同乗していた女性がいた。幸い骨を折る大怪我をしたものの、今は元気にしていると聞いていた。家族以外はこの事実を知らない。知らせることなど出来なかった。信じていた夫が浮気をして、そして自分の死と一緒にその事実を突きつけたのだから、ショックは大変なものだった。

夫のせいで怪我をしたのだから、妻として謝罪をしなくてはならなかったことも悔しかった。病室で先方の家族に冷たい目で見られて、自分が犯人の妻!みたいに感じられたことは忘れられない。夫を失った悲しみより、自分が受けた仕打ちの方が辛く、その浮気相手の顔は忘れることが出来なかった。

従業員として自分達の部署に入ってきた智子を見て、淑子はハッとした。それは、夫の浮気相手にそっくりだったからである。年齢も、体付きも、顔立ちも、すべてである。本人なんじゃないのかと疑った。でも、紹介された名前は違っていた。それ以来自分にとって気になる存在になった。

「智子さんはどちらにお住まいですの?」淑子は続けて聞いた。
「はい、高辻(たかつじ)なんです。青木さんはどちらですか?」
「近いね。バス一本で来れるのね。私は南区の柴田町だから、電車とバス乗継してるの」
「大変ですね。朝は混雑するんじゃないですか?」
「そうね、帰りもそうなるから。なれたけど、働くってやっぱり大変なことよ。誰か後添えにもらってくれないかなあ・・・ねえ?課長」
少し甘えた声で、淑子は横井の方を見てそう言った。

「いやあ~お姉さんならなって欲しいです」冗談で返した。
「失礼ね!歳だから相手にしてないって言う事じゃない」
「怒らないで下さいよ。冗談なんですから・・・青木さんはこれからまだまだいい出会いがありますよ。きっと」
「ウソでも嬉しいわ、フフフ・・・」

会話を聞いてい横井は皆から注目されているんだと智子は感じた。

このときの会話でそれほど気にならなかった智子だったが、淑子の横井に対する感情は普通では無かったのだ。13歳年上にもかかわらず、思いを密かに寄せていたのだ。誰にも気付かれてはいなかった。本人に告白することもなかったから、淑子だけの楽しみでもあった。

新しく入社してきた智子は若くそれなりの容姿をしていたから、淑子にとって多少は気になる存在でもあった。夫の浮気相手に似ているということよりも、横井に近づいたりしないかという事が気になっていた。智子は新入社員だったのでまだまだ皆には遠慮気味で話をしていた。女性ばかりの職場ではいろんな噂話に花が咲く。ここの職場も陰口や悪口などは日常茶飯事になっていた。

午後9時になって歓迎会は中締めとなり、半数ぐらいの人が帰ってしまった。智子は夫が居ないから気楽に考えていた。同じように独身の文子と淑子に誘われて、カラオケで二次会をすることになった。飲めない智子にとって酔っ払いの相手をすることはいくら友達でも苦痛であった。話がくどい、同じ事を何度も言う、タメ口になる、人の悪口を言うなど疲れてきて相手をしたくないと顔に出ていた。

「ねえ、智子さん、あなた一人だけしらふなんて失礼よ!誰のための歓迎会だと思っているのよ。もっと嬉しい顔をしなさい!ねえ、淑子さん?」
「そうそう、飲めないなら歌を唄いなさいよ!聴いてあげるから、ねえ文子さん?」
「そうだ!唄え、唄え・・・」

なんとも我慢の限界に近くなってきた。悪いとは思ったが、「夫に叱られますので、もう帰らせて頂きます」そう言って、席を出ようとした。
「智子さん、私たちも帰るわ。あなたが居ないなら歓迎会にならないもの。タクシー呼んで下さる?」
「まだバス走ってますよ」
「乗り過ごしちゃうよ。タクシーで帰るから呼んできて」
「解りました。フロントで頼んできますから、待っていて下さい」

下の階に降りて、受付でタクシーを頼んで戻ってきた。
「あなたはどうするの?バスで帰るの。一緒に乗って行けばいいよ」
「方向が違いますから、私はバスで帰ります」
「冷たい人ね。付き合いって言うものがあるでしょ。淑子さん、仲良く一緒に帰りましょうね・・・」

こんな酔っている文子を始めて見た。心の中は寂しいのだろう、そう感じたが、今は人のことより自分の心配をしないといけない状況だった。

次の出勤日に文子は智子に謝ってきた。
「歓迎会は気分を悪くさせちゃったね。ゴメンね。私も淑子さんもお酒が入ると寂しさが出てしまうのよ。これからは気をつけるから、嫌にならないでね」
「そんな、嫌になんかなりませんよ。こちらこそ付き合いが下手ですみませんでした」
「そうならいいけど、淑子さんも気にしていたから安心したわ」
「そうだわ、あなたに相談があるのよ。今日仕事終わったら聞いてくれない?」
「今日ですか・・・娘がバイトで遅くなるって言ってましたから、息子の食事を作らないといけないんです。明日ではいけませんか?」
「それでもいいわ。じゃあ明日にしましょう。話は二人だけだから」
「はい、娘に夕飯の支度を頼んで出てきますから大丈夫です」
「ご主人に怒られない?」
「ええ、大丈夫です」
「少しはあなたへの理解が出てきたのね」
「違うんです。内緒ですけど、夫は家に居ませんの」
「なんで?離婚したの!」
「していませんよ。自分から実家に帰ってしまったんです」
「あなたじゃなくご主人が実家に帰ってしまったの?何故?」