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少年時代

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「居たっ」僕は興奮して急いで手を伸ばしたが、顔が水面についても届かなかった。その音に驚いて、あの魚は素早い動きで目の前を通り過ぎてどこかへ行った。泥で巻き上がり水が少し濁った。

僕はちょっとドキドキしている。最初思った以上に大きいのではないかと感じた。少しずつ水がきれいになって行く。そして僕も少しずつ冷静になってきた。あの一番深い所では捕まえられないだろう。すると比較的浅い上流に追い込めばどうだろう。

もうすっかりきれいになった川底をずーっと探した。居ない。僕はゆっくりと上流に向かった。またパチャパチャと音がした。その方向を見た僕はまた興奮状態になった。何と予想以上の上流であの魚が「ここまでおいで」と言っているように身をくねらしている。僕はすぐ回りを見て、一旦川から上がり、土手を通り回り込むようにした。

少し冷えた身体に熱い日差しが気持ち良かった。足音を立てないように小さな土手の上を五、六メートル歩くと土手が低くなっている所がある。そこを降りて砂利の上を歩いて流れに向かった。

あの魚は確かにそこに居て、僕を待っていたかのように動き出し、スーッと移動してまたあの淀の方に行ってしまった。僕は流れに入り、少しずつ深くなっていく川をさらに下った。魚はさらに僕を誘うように、堰き止められて広くなっている場所をぐるっと回って、淀の薄暗い中に消えた。

もうヘソのあたりまで水につかりながら、進む、足元から砂泥が浮き上がり濁るが、それがすぐ流されてきれいになる。どこにもあの魚は見えない。僕は先程見失ったあたりで、勢いよく手を水面に叩きつけた。バシャッと大きな音がして顔が水浸しになった。口から生臭いような水がしみ込んできた。もう顔が濡れたので、全身を川に沈め、バタバタと手を動かしてから立ち上がった。水が濁っている。頭から顔を流れる水を手の甲でぬぐいながら、僕はゆっくりと視線を上流の方に向けた。オレンジ色が目に入る。上流の澄んだ浅瀬の中、尾ひれをひらひらさせ、まるで僕を挑発しているようだ。

「落ちついて、ゆっくり進むんだ」と自分に言い聞かせながら進む。目はオレンジ色を見たままだ。近づく毎に水深は浅くなり、腰の下にまでになった。ずいぶんと動きやすくなって、急いであの魚に向かった。オレンジ色が僕の方に向かってくる。僕はタイミングを計って勢いよく水に手を入れ掴もうとした。

僕は一瞬の間立ちつくしていた。たしかにあの魚に触れた感触があった。思ったよりもずっと大きな力強いものに触れた感触だ。しかし、掴むどころではなかった。スピードが速い。すごい奴だ。僕はますますやる気が出てきた。僕はあらためて辺りを見回した。

作品名:少年時代 作家名:伊達梁川