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少年時代

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居るではないか、またあの上流に。いつの間に戻ったのだろう。今度はさっきより慎重にゆっくりと進んだ。両側の石の少ない、魚の通り道になっていそうな所も確認しながら進んだ。やはり真ん中の今進んでいる所が一番広く深い。まだあの魚は移動していない。
あと1メートル位まで近づいた。僕はゆっくり水の中にしゃがみこみ、身体全体で包み込む作戦に出た。

クルリとあのオレンジ色の魚が向きを変えた。「くるかっ」僕の身体に一瞬緊張が走った。僕はその魚の目と視線があった。そしてその口はパクパクと動いて、何か言っているように見える。さらに顔を上に上げて「さあ、こい」と言っているようだ。僕はつられて飛び込もうとしたが、辛うじてさっきの失敗を思い出し、水中を中腰のままじわっと距離をつめた。

もう手が届く距離だ。顔を水面に近づけ狙いを定める。近くで見るそれはかなり大きな口をしていた。僕の手はすでに水の中にある。その魚はこっちをむいたままだ。僕はスッと身体ごとその魚に向かった。バシャツと大きな音がした。一瞬目をつぶった。頭の中が真っ白くなったようだ。感触だけがある。

足に魚が当たる感覚と手が痛い感覚。左手が鋭いものに触ったチクッと痛い感覚。右手の指が何かを掴んだ感覚、いやくわえられた感覚だ。反射的に手を引こうとするが水中のせいか何かが邪魔をしているのか、引けない。反対に引っ張られている。バランスをくずした僕は頭まで水中で横になり、一瞬息を止めた。水を飲みそうになり、慌てて起きあがろうとしたが、手を引っ張られて少し流された。

僕はパニック状態になり、その辺のものに掴まろうとしたが自由になっている手は砂か小石しか掴まない。息が苦しい。苦しいはずなのになぜか気持ちの良い感覚もあり、僕はその感覚に身を委ねた。

頭のぼうっとした中で、身体が反転し手を引っ張られる感覚がある。ふっと息が楽になったようだ。瞼を通して明るさとそして顔に暑さを感じた。手を眼の上にかざし、太陽の直射を遮り眼を開けた。浅瀬に仰向けに寝ていたのだった。青い空が見えた。耳の脇を水が流れている。そういえばいつの間にか右手は自由になっていた。僕はゆっくり上体を起こした。腰は水につかっている。そのまま僕は先程の夢の中のような感覚のことを思い起こしていた。僕は自分とオレンジ色の魚を入れ替えてみる。

「あっ、僕は魚に遊ばれていたんだ」

end
作品名:少年時代 作家名:伊達梁川