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少年時代

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ジージーと絶え間なく鳴いている蝉しぐれの中、家の一番奥の比較的涼しい部屋で父を始め、母や兄弟達は皆昼寝をしている。中学生になったばかりの僕も寝ようと横になったが、眠くはなかった。それで外に出てみたが、太陽が真上からジリジリと頭を焼く。僕は麦わら帽子を取りに戻り、かすかに汗の匂いのするそれを被った。

家の前の坂を下りると、少し高い所には畑があり、低い所には小川が流れている。その側には田んぼがある。僕はただ何となく、気の向くままにトウモロコシが植えてある畑の側を通り、小川に向かった。歩いている細い道には踏みつけられた雑草が、暑い日ざしにもめげずしっかりとふんばっていた。川の向こう側の田んぼから水と稲の混じった風が吹いてくる。そしてかすかに川の水が流れる音が、僕をそちらに向かわせた。

もう丈は充分そだち、花を咲かせ、実を実らせるばかりの稲が風に揺れ、波打っている。しばらくその波をぼんやり見ていたが、川の規則正しい流れの音の中、ポチャツと音がして、僕はそちらの方へ向かった。

曲りくねった川の一箇所を堰き止め、田んぼに引いている水が土管の中に次々と吸い込まれて行く。そしてその小さなダムのようになっている所から流れる小さな滝を僕は見ていた。もう何度も見ている筈だが、その日は前日の大雨のせいか、水量が多くて力強く、しばらく見とれてしまった。

またポチャッと水音がして、音のする方を見るとオレンジ色の、たぶん魚だと思うものがすーっと向こうに消えた。僕は見間違いかなと思いながら、小さなダムを渡り、向こう岸へ渡った。堰き止められたせいで、小さな子供が泳げる位になった淀は土手から灌木が水面に覆い被さっていて、少し薄暗くなっている。その辺はいつもは僕の腰ぐらいの水位なのだが、今は胸ぐらいまでありそうだ。その少し上流は川幅もせまく小石も多い。この辺でよくカニをとったものだった。

何も見えないので、僕は小石を拾って薄暗い淀に投げ入れた。するとオレンジ色の魚がスーッと動いた。それは50㎝以上ありそうだった。そしてそれは堰き止められたダムの近くまで行き、Uターンして止まり、僕を見ているような気がした。

僕は興奮してその魚をどうしても捕まえたくなって、堰き止めてある石や砂袋の上に戻り、そっと足を入れた、水の冷たさが気持ち良かった。でもすでにあのオレンジ色の魚は見えない。半ズボンの裾が濡れている。もう全部濡れてもイイヤとお風呂に入るようにしゃがみ込んだ。火照った身体が冷えて行く。 僕は水面に顔を近づけあの魚を探す。小さな鮒は見えたが、あのオレンジ色の魚は見えない。足底にあたる石がヌルヌルしている。僕は足を滑らせて転ばないようにゆっくりと淀のほうに向かった。土手から水まで覆っている木か草か分からない植物の先端を掴み、そっと持ち上げた。薄暗かったそこに光がさしこんだ。小さな虫たちがさーっとどこかへ逃げる。鮒も何匹かスーッと身をくねらして移動した。川底に少し大きめの石があった。その後ろの方にゆらゆらと動いているオレンジ色の尻尾が見えた。


作品名:少年時代 作家名:伊達梁川