芽吹くことなく
「桜、散っちゃったね」
保健室のベッドの上で、惇がポツリと言った。枕もシーツも、壁の色も床の色だって、全部が真っ白な保健室。まるで病院のようで、私は嫌いじゃない。
「北海道の桜って、咲くのは遅いのにさっさと散るのね」同じく真っ白なベッドの上で、両足をふらつかせながら文句を言う。「仕方ない、寒いから」とよくわからない言葉で、惇が諭す。その間も、大きな窓から充分過ぎるくらいの陽光が、部屋中を満たしきっていた。
中学の頃から幼馴染で、中学の頃からイジめられっ子同士の私と惇は、そんな状況の中だからこそ、仕方なく仲良しにならざるを得なかった。
私がイジめられた時は、惇がかばって、惇がイジめられた時は、私がかばって。
いい加減疲れてしまった私は、中学を卒業するときに、余白の多い卒業証書を細かくビリビリに破きながら言った。もうやめよう、って。
高校ではイジめられないようにしようって。
同じように、私の横で卒業証書を紙クズにしながら、惇が頷いた。もう疲れたね、って笑いながら。
「でも、どうすればいい?」
「私たちと、あの子たちの、違いをみつけよう。あの子たちと同じようになればきっと、イジめられることなんてなくなるでしょ」
「さすが! 美都子はやっぱ頭良いよ」
「そうでしょ。じゃあ、考えて。あの子たちと私たち、どこがどう違う?」
「うーん、と」
誰もいない、広いグラウンドの隅で、二人そろって云々唸りながら、答えを探す。
あの子たちはよく喋るけれど、私たちは必要なことしか話さない。
あの子たちはよく笑うけれど、私たちは必要なときしか笑わない。
じゃあ、こうしよう、と決めた。よく喋ってよく笑うようにすればいいんだ。
「それ良いよ! 美都子はやっぱり賢いね」
「そうでしょ。じゃあ、高校にはいったら、私たち、たくさん喋ってたくさん笑うわよ」
うん、と頷き合った。それでもう、抱えていた問題が全て、頭の中から胸の中から、体中から霧散していって、三キロくらい体重が減ったくらいの感覚に陥るほどだった。それくらい、名案中の名案だと、信じて疑わない二人だった。