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ななじゅうく
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novelistID. 30706
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訴えかける老人

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疑問、いえ、それよりも恐怖を抱きました。寒気と、耳鳴りが同時に発生しました。
正体のわからぬ悪意すら感じました。

それから1時間、いや、10分ほどだったのかもしれません。
私は、どのような経路を通ったのかすら覚えていませんが、
とにかく、気がつけば自宅の目の前に居ました。

玄関の扉を開けようとした私は、一度それを躊躇しました。
手は激しく震えていて、さらに私の目からは涙がこぼれていました。
呼吸が整うまで、私は待ちました。
それから、家に入ると私は、妻の顔も見ずに早々と床に就きました。

次の日、私は朝起きると歩いていました。あやうく、電信柱にぶつかるところでした。
別に、私は歩きながら寝ていたわけではありません。

夜、眠りについて、次に目を開いた時には既にその瞬間だったのです。
朝起きてから、そこに至るまでの一切の記憶がありません。
そこはどこだったんでしょうか、辺りを見回すより先に私は
顔を手で覆い、その場にうずくまりました。
自分の立っている地面すら、恐ろしく感じました。

何者かが地中に潜んでいて、隙あらば私をひきずりこもうとしているような、
もしくは、この大地そのものが私を拒絶しているかのような、
敵意とも悪意ともつかない感情に怯えていました。

私は許しを乞いました。
私の何がいけなかったのでしょうか。
私は、知らぬ間に罪をおかしたのでしょうか。
私が、本当に私がおかしいのでしょうか。
それとも、私以外の世界がおかしいのでしょうか。
私は顔を覆う手を外すことができませんでした。
この手を退けた時、そこは家でも、道路でもない、また別の景色が待っている。
嫌でも、そう考えてしまいました。
しかし、私の「耳」は容赦なく音を受容し続けていました。
車の音、犬の鳴き声、人の歩く足音、こちらに近づく足音、
こちらを見て不信がる人々。その話し声。

そして、それらの一切が、ある瞬間から聞こえなくなりました。

作品名:訴えかける老人 作家名:ななじゅうく