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クリスマスお父さん

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●第四話

「サンタクロースを信じていたのは何歳までだったかな……」

 暖かいお茶を飲みながら、ふとそんなことを思い出した。
「さすがにそんな歳ではないだろう?」
 娘の年齢のことを言っているのだろう。
 吉原が私の顔を見ていた。

 私と吉原の前には、山のように書類が積まれている。
 今回の作業に関する報告書類が人数分。一人当たり平均二十枚。 これは堪らんと吉原に助力を願い、二人で書類に目を通すことにしたのだが、最大量が減っただけで、単体に対する作業量にはなんら影響が無いわけで、延々と繰り返される単純緻密作業に対し、早くも根をあげてしまったところだ。

 クリスマスが近いせいか、サンタクロースという単語が自然と口から出た。
 このデスクワークから一時でも逃れたいと思う気持ちが、他愛も無い会話を生みだす。残念ながら、吉原にはクリスマスというイベントに関しての特別な感情が無い。サンタクロースという単語から会話が発展することは無いだろうと思った。
 せめてもう少し吉原の興味を引くようなことを言えばよかったと後悔した。吉原が会話に乗ってこない場合、気晴らしもないまましばらくデスクワークが続くことになる。

 案の定、吉原は会話に乗ってはこなかった。

「そうだな、いつだったかな」
 書類に目を戻しながら発されたその言葉に、私は何も言えなくなってしまった。

 吉原の父親は、数十年前のクリスマスの夜に愛人と家を出た。妻と子を捨てて。
 その出来事が心的障害となって、彼の結婚を妨げていることは間違いない。実際に、吉原にはすでに数年間付き合っている女性がいる。
 和服が似合いそうな、清楚な感じのする女性だった。
 式はいつなんだ?と茶化したがことがあるのだが、さあな、と軽く流されてしまった。吉原の微笑みには、時々正体不明の迫力があり、それ以上何も聞くことができなくなるときがある。
 『父親』というモノに対して抱いているコンプレックスはまだ解けていないようで、「子供を愛せる自信が無い」と漏らしていた。

 吉原がクリスマスを祝うことをしないのは、そういう事情があるからなのだろうか。


 私がサンタクロースを信じなくなったのは、小学生になった年だった。どうということはなくて、自然とサンタクロースの正体は両親だと知った。
作品名:クリスマスお父さん 作家名:村崎右近