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クリスマスお父さん

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●第三話

「こんな時間までどこに行ってたんだ?」
「どこだっていいじゃない」
「遅くなるときは電話する約束だろう。その為に携帯電話を持たせてあるんだ」
「早く帰るつもりだったけど、気が付いたらこんな時間だったの」
「学校が終わって何時間すぎていると思っているんだ」
「疲れてるから、シャワー浴びて寝たいんだけど?」



「食事は外で済ませて」
 昼前にかかってきた妻からの電話だった。
 義父が腰を痛めてしまったらしく、とりあえず今夜は義父についているそうだ。

「美樹も外で済ませるって言っていたわ」
「そうか、お義父さんによろしく言っておいてくれ」
「明日の朝、携帯に電話するわ」

 先日の仕事の後始末は部下達が要領良くやってくれている。
 当面の私の仕事は、上がってきた書類に目を通してハンコをぽんぽんっと押す。
 退屈で眠くなるような仕事だ。

 三日前まではあんなに足りなかった時間が、今は鬱陶しく感じるほどゆっくりと流れている。
 電源をいれてはみたものの、何をするというわけでもなく、ただただスクリーンセーバーを眺める。そうしている間に昼休みがやってくる。
 まだ一日の三分の一しか過ぎていない。

「時間ってのは、無いようで有るもんだな」
「何か言ったか?」
 吉原が声を掛けてくる。
 急ぎの作業はないはずなのに、朝から一心不乱にキーボードを叩いていた。
「いや……なんでもない」
 すでに食事に出てしまったのか、フロアに他のメンバーの姿はなかった。
「昼はどうするんだ?」
「パンを買ってある」
 私の問いに対する吉原の返事はあまりに素っ気ない。
「そうか」

 私は一人で外食することに決め、開発部のフロアを後にした。社員食堂で一人で食事をするのはなんとなく寂しい気がしたからだったが、会社を出た後に夕食も外食せねばならぬことを思い出して後悔した。

(うどんにするか)

 うどん屋に入った私はカウンター席に座った。
 混雑する直前のタイミングだったらしく、注文したエビ天うどんが出てくる頃には行列ができていた。
「ごちそうさま」
 私がそう言って立ちあがるのと同じタイミングでもう一人の男が立ちあがった。
 ふと目が合った。
「あっ!」
 その男の名前を呼ぼうとして慌てて言葉を飲み込んだ。

「よう! ひさしぶりだな」
 その男は『上野 修平』という。
作品名:クリスマスお父さん 作家名:村崎右近