クリスマスお父さん
「チーフ、チーフ」
開発部のメンバーが私を呼んでいた。
「チーフ……抜け殻みたいになってますよ?」
―― そうか?
「早めに家に帰られた方がよろしいのではないですか?」
―― 家に、か?
吉原が笑いを堪えきれずに、くくっと肩を揺らす。
「吉原さん、チーフはどうしてしまったんですか?」
吉原は『話してもいいのか?』という目で私を見ていたのだろうが、生憎と私にはそれに応える気力は無かった。
「仕事の報告があるんじゃないのか?」
吉原は仕事口調に戻していたが、奴はやらしい笑顔のままだったに違いない。
(あとで覚えとけよ)
今の私にはそれが精一杯だった。
「人事部の野田部長が、年明けの新卒……」
タバコでも吸いに行ったのだろう。二人の声が遠くなっていった。
仕事に打ち込むことで気を逸らしていた美樹の反抗期。
今朝の出来事で一気に思い出してしまった。
年内に大きな作業は残していないし、今のところ発生もしていない。今年も残すところあと二週間。少し長いがそれぐらいの休みを与えても、それでも足りないぐらいの働きをしてくれた。
さっきの話からすると、新卒採用者の研修が新年早々始まるうえに、二月からまた大きなプロジェクトが始まる。これぐらいの休みは大目に見てもらおう。
窓の外には寒そうな風が吹いている。それは私の中で吹き続けている木枯らしだ。
もう充分散っているのだ。そろそろ春風を吹かせてくれないか。
私はすべての想いを込めて呟いた。
「寒太郎よ……北へ帰れ」