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クリスマスお父さん

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●第十四話

 私は一日入院ということになった。

 結局、親子喧嘩で娘が私を刺したということになってしまった。
あの時、あの場の全員でそれは無茶だと説得したのだが、携帯を取り出して通報してしまったのだ。

「私、今、父親を刺しました。……いえ、左腕です。救急車をお願いします」

 野村部長の娘は、上野が家まで送っていった。
 知らない男と二人きりになるのを嫌がったが、私の友人だからということで、とりあえず家に着くまでは我慢してもらうことにした。

 私はその夜のうちに治療を受けた。
 娘は翌朝出頭ということになり、今朝、事情聴集というものを受けてきたらしい。
 私も明日の夕方には行かねばならない。

 事情聴集では、娘と打ち合わせした通りに話した。
 多少は言い分が違った方が、説得力があったりするものだ。

「今日はクリスマス・イブですよ」

 担当の人がポツリと漏らした。

「娘は、もう私がサンタクロースにならなくてもいい年になってしまっていたんですね」
 それから小一時間ほどの説教を聞かされたあと、ようやく開放された。

 警察署の正面で、娘が私を待っていた。
 冷たい風が体を包む。

「帰ろっか」
 娘は私の右側に立ち、腕を絡ませてくる。

 シャンプーの香りがした。
 もうすぐ大人になってしまうのだと感じた。
 近い将来、傍で娘を守る役目は誰かに奪われてしまうのだろう。
 そんなことが頭をよぎった。


 私は娘に対して『まだ子供だ』という認識をしていた。
 それが娘には耐えられなかったのかもしれない。
 今回の事件はいい経験になったことだろう。
 これからはもう少し娘を信じてみよう。娘の力でどうしようもなくなったとき、私はそんなときでも助けてやれる父親になろう。

 不意に私の携帯が鳴り響いた。
 娘は私のコートのポケットから携帯を取り出した。

 私の携帯が鳴っている。

 娘は私の左腕にそっと手を添えた。

「ごめんね、お父さん」

 私の携帯が鳴っている。

 娘は通話ボタンを押して、携帯を私の手に押しつけた。

「あったかい飲み物、買ってくるね」

 娘が私を『お父さん』と呼んだのはこのときが初めてだった。
 『パパ』と『お父さん』
 この小さな違いを、私は今、とても幸せに感じている。

「美樹、レモンティーを頼む」
作品名:クリスマスお父さん 作家名:村崎右近