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クリスマスお父さん

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 上野が指定した場所は、町工場が多く残っている地区だった。
 中小の工場が多数存在していて、昼間ならばひっきりなしにトラックが走っている。
 だが、夜ともなれば話は別で、明かりが点いている建物は数えるほどになり、ひっそりと静まりかえる。
 そうしてここは中高生たちの溜まり場へと変貌する。
 麻薬の取引が行われていても、やっぱりそうか、と納得してしまいそうな雰囲気となる。

 少し離れたところで運転手に道を確認してタクシーを降りた。
 街灯の光が辺りの静けさを不気味なものにしている。
 路地を左に曲がったところで、二階に明かりが点いている建物が目に入った。
 その明かりを見て、ぞわぞわとした胸騒ぎが湧き起こる。

「こっちだ」
 抑えてはいたが、間違いなく上野の声だった。

「娘はどこだ」
 上野が人差し指を口の前で立てていた為、私は自然と小声になっていた。
 上野は口の前に立てていた指で、明かりの点いた窓を指した。

 飲み屋街で見かけた娘が、こんなところにいる理由が思い付かなかった。

 なぜ上野が娘の行方を知っているのだろう?
 そして、なぜ私を呼び出したりしたのだろう?

 疑問は尽きないが、いまは上野の言葉を信じよう。

 私の調査に査察部が雇った外探偵が、上野ではないとしたら?
 上野は全く別件の調査中で、ターゲットの男が連れ込んだのが私の娘だったとしたら?

 私は明かりの点いた窓を指差し、顔の前で指折り数える仕草をした。その仕草は、相手に数量を訊ねる手話のものだ。
 上野は指を三本だけ立てる。

「最後の男が部屋に入って五分も経っていない」
 建物に向って歩き出していた私は、不意に上野の声が聞えなくなって、不安になり振り向いた。
 洗練された上野の声はしっかりと抑えが効いており、二メートル以上離れると全く聞えなくなる。
 上野は小さく頷いた。


 ―― 美樹、こんなところで何をしているんだ

作品名:クリスマスお父さん 作家名:村崎右近