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クリスマスお父さん

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 細い路地の向こう側から、車のエンジンの爆音が聞えてきた。間違いなく手を加えてある音だ。
 何とは無しに視線がそちらに流れる。
 いかにもナンパしに来ています。というような男達が目に入る。
 ふと、私にもそんな時代があったものだと表情が緩む。
 社員達へと戻しかけたその視線の先に、私は見てはいけない―見たくはなかった―人影を見つけてしまった。

 ―― 美樹だ

 車の後部座席に嬉々として自ら乗り込み、Uターンする様子もないまま、家とは正反対の方向へと走り去って行く。
 その一部始終を、酔った私はただ呆然と見ていることしかできなかった。


「少し飲み過ぎたようだ」
 そういって二次会を辞退しようとする私を、開発部のメンバー以下ほぼ全員が引きとめた。
「意外と人気があるんだな」
 どこからとも無く現れ、皆をなだめて二次会へと導いたのは吉原だった。
 いつもの私ならばなにかしらやり返すのだが、今はそれどころではなかった。

 ちゃんとしたお付き合いならば(ホントは嫌だが)我慢しようと決めていたというのに……

 よりにもよって!
 ナンパ男どもの!!
 車! 車に乗り込むとわぁ!!

 娘よ!!
 パパはそんなふしだらな娘に育てた覚えは無いぞぉ!!

 どおぉぉぉぉしてだあぁぁぁぁぁ……!!


 一頻り頭を抱えたあと、意識を取り戻したのは一時間ほど経ってからだった。
 『Stay Free』には、私を含めて三人しかいなかった。
 私以外の二人は、吉原と『Stay Free』のマスターだ。

 私は店のソファーに寝かされており、吉原とマスターは、何やら込み入った話をしているようだった。
 店の置時計を見ると、零時を少しまわったところだった。
 深い溜息を吐く。

 私は深く沈み込んでゆく感覚に身を任せることにした。

作品名:クリスマスお父さん 作家名:村崎右近