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クリスマスお父さん

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●第六話

「今夜、着替えを取りに戻ります」
 義父の腰の様態は思ったより軽かったものの、やはり心配なのは変わりないので、とりあえず正月まではこのまま義父の元に居るつもりらしい。
 二週間も外食をさせるつもりなのだろうか。と思いつつ、娘にそのことを話す。
「じゃぁ、私は外で済ませるね」
 娘は嬉しさを隠せない声で言った。そんなに外食が楽しいのだろうか。
 妻との電話が終わる前に、娘は学校に行ってしまった。
 私もそろそろ会社に行かねばならない。
「靴下の場所わかる? ネクタイとYシャツと……」
 延々と続く妻の話しを聞いていると、まるで一人では何もできない男のような気がしてきた。
「大丈夫だよ、水まわり以外は分かっているつもりだ」
 何かあったらすぐに電話してね。と何度もしつこいぐらいに念を押されながら、わかったよ。と半ば突き放すように電話を切った。
 そんなに世話をかけているつもりは無かったのだが、妻にしてみれば、私は充分に手間のかかる男だったらしい。
 ガスの元栓と戸締りだけは気を付けて家を出た。

 いつもと何の変わりも無い。唯一の違いは朝食を取っていないことだけだ。
 会社の近くのコンビニでサンドイッチと牛乳を買った。
 開発部のフロアに行くと、もうすでに数人のメンバーの姿があった。
「おはよう!」
 朝の挨拶は、やはり大きな声でするものだ。
 私はメンバーを脅かさないように気を付けながら声を出した。
「おはようございます」
「チーフ、おはようございます」
 開発部のメンバー達が口々に挨拶を返してくる。
「あれ?チーフ……」
 どきっ どこかおかしい所でもあったのだろうか?
 ネクタイが曲がっていたり、スーツとの組み合わせがまずかったりしているのだろうか?
 大丈夫だとは分かっていても、やはり気になってしまうものだ。
「ど、どうした?」
「今日は寝坊でもしたんですか? コンビニでサンドイッチなんか買ってきて」
 ほっ どうやらどこもおかしくはなかったようだ。思わず緊張してしまった。
「まぁ、ちょっとな」
 私は、その場を逃げるように主任席へと足を向けた。

作品名:クリスマスお父さん 作家名:村崎右近