小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

クリスマスお父さん

INDEX|13ページ/34ページ|

次のページ前のページ
 
 吉原が同じコンビニで買ったオニギリを頬張っていた。
 はむ はむ はむ はむ……ごくんっ
「朝は米を食うべきだぞ?」
 二個目のオニギリを取り出しながら、私に視線を投げてきた。
 昼食をパンで済ます男の言葉とは思えない。
 手元を全く見ていないというのに、実に器用に袋から取り出して海苔を巻いていく。そのオニギリが口に入る瞬間まで、吉原の視線がオニギリに注がれることは無かった。
 慣れるというのはすごいことだとつくづく思う。

 今日も、電卓を片手に書類の山を攻略しなければならない。
 実際これは部長の仕事であって、主任である私は書類をまとめて持っていくだけの筈なのだが、『正しいかどうか全部調べてから私に提出しろ』という至極当然のことを言われてしまい、私がすべて調査しなければならなくなった。
 そうして、部長はデスクでふんぞりかえっているだけ。

 余談だが、この会社では開発部の部長と人事部の部長が同姓同名という珍現象が起こっている。
 開発部の野田部長と人事部の野田部長のことだ。
 それぞれの部では、『ノダカイ』『ノダジン』という名で呼ばれている。
 ちなみに、『野田 仁(のだ ひとし)』が部長の本名だ。
 ノダジンの方は、それはそれは立派な部長ぶりで、部内の信頼も厚い。
 一方、ノダカイの方はと言えば、きっかり定時に帰宅する。週末はゴルフ。という立派な部長ぶりだ。

 以前、取引先の重役とノダカイについてこんなやりとりがあった。
 月曜の夕方六時頃に、取引先の重役が開発部のフロアにやってきた。近くまで来たので、挨拶に寄らせてもらったとのことだった。

「おや? 野田部長はおられないのですか?」
「本日は退社致しましたが?」
「今日はなにか用事でも?」
「いえ、今日だけというわけではないんですけれど……」

 対応したのが新人で、ベラベラと余計なことを話し、相手を激怒させてしまったのだ。
 その新人に対してではなく、ノダカイに対してだが。

 そうして、ノダカイの立派な部長ぶりを知り、『部下が遅くまでがんばっているのに、毎日定時帰宅の週末ゴルフとは何事か!』と、ものすごい剣幕になっていた。
 私が喫煙所から帰ってきたのはそんなタイミングだった。

「あなた方の会社は、あのような男に高い給料を払うほど余裕があるんですな」
「それが我が社の七不思議の一つでして……」
作品名:クリスマスお父さん 作家名:村崎右近