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クリスマスお父さん

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 午後十時を少し過ぎた頃、私は家に帰り着いた。
 家の明かりが点いておらず、全く人の気配がなかった。
 もう寝てしまったのかとも思ったが、玄関に娘のローファーが見当たらなかったので、その考えはすぐに消え失せてしまった。
 部屋のドアを開けると不機嫌になるのは分かっているが、寝ているのかどうかだけは確認しなければならない。
 娘の部屋に行く前に、家の留守番電話のメッセージを確認する。
 娘からのメッセージは無い。
 着信履歴にも、娘の携帯どころか、非通知電話、公衆電話も含まれていなかった。
 当然、私の携帯にも娘からの連絡はなかった。

 それから三十分ほどして帰ってきた娘は、制服姿のままだった。
 リビングで娘と目が合った。娘は、やばい。という顔で控え目に、ただいま。と言った。
 娘の声を聞いて、不思議と怒る気が失せてしまった。
 無事を確認できたことで安心してしまったのだろう。

「おかえり。ちょうど風呂が沸いたところだ、先に入っていいぞ」
 それだけを言って、読んでいた本に目を落とした。
「あ……うん、わかった」
 娘は拍子抜けしたように返事をし、足早に自分の部屋に向かった。
 わずかにアルコールの匂いがしていることに気付いたのは、娘が見えなくなった直後だった。
 顔にはアルコールを摂取したような症状は出ていなかったし、足取りもしっかりしていた。娘が直接飲んだかどうかは分からないが、アルコールの匂いが染み付くような場所に居たことには違いない。
 なんだか嫌な予感がして、背筋が凍るような感覚に包まれ、その夜はなかなか寝つくことができなかった。


 気が付くと、妻からの電話が鳴り響いていた。

作品名:クリスマスお父さん 作家名:村崎右近