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クリスマスお父さん

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●第五話

 ありがたいことに、吉原が酒類無しの晩飯に付き合ってくれた。
 中華料理屋に行き、私はスープ付きの焼飯セットを、吉原は酢豚を注文した。
 昼間に思い出した女性とのことを聞こうと思ったが、年が明けてからの方がいいと思いなおした。

 この時期になると、吉原は時折悲しげな表情を見せる。
 十二月に雪が降ると、降り積もる雪をただじぃーっと見つめ、ふっ、と笑って元に戻る。
 十二月にはそのことに触れてはいけないような気がして、私は言葉を飲んだ。これは吉原が自分自身で解決しなければならないことであり、悲しくも部外者である私にはどうすることもできないということも、一つの事実だった。
 興味本位で突付いて良いことではないのだ。少なくとも私はそう思っている。

 別の話題を探していた私の脳裏に、一心不乱にキーボードを叩く吉原の姿が浮かんだ。
「そういえば、昼前に必死に何かやっていたようだが?」
 吉原は、ちょうど豚肉を口に放ったところだった。

 はむ はむ はむ はむ……

 吉原の目は、ちょっと待て、食べ終わるのを待て、と訴えていた。
 私はスープを一口飲んだ。
「あれな、今はまだ秘密だ」
「はぁ?」
 そんなことを言う為に目で待てと訴えていたのか。最近、吉原がよくわからなくなってきた気がする。
「『今は』ってことは、いつか教えてくれるのか?」
「気が向けばな」
「なんだよそれは」
 フフン、と勝ち誇った笑みを浮かべる。
「勤務中にプライベートなことをするのは、就業規定に反するぞ?」
「かたいこと言うなよ」
「じゃあ、サワリだけでも教えろよ」
 吉原は参ったよ、とばかりに箸を置き、水を一口飲んだ。
「今はまだ企画書の段階だが、上手くいけばソフトとして売れるかもしれない。そうなれば一儲けできる」
「何をしているのかと思えば……それにな、会社で作ったものは会社に著作権があるんだぞ?」
「企画書の著作権ならいくらでもくれてやる」
 吉原は人参を口に放った。
「小悪党め」
 私は皿の上に残った焼飯を一気にかき込んだ。

作品名:クリスマスお父さん 作家名:村崎右近