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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑アナザー

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「シュバイツさんは車を奪って逃げました。わたくしたちも新しい足を捜しましょう」
「まずはひとまずこの場から逃げよう」
「そうですね、シュバイツさんはわたくしの?本体?が追っていますから大丈夫です」
 2人はこの場を一刻も離れようとした。
 走って逃げる途中で紫苑が彪彦に話しかける。
「今、知り合いから連絡があった」
 紫苑がどこかと連絡を取っている様子はなかった。
「ああ、愁斗さんの方にですね」
「龍封玉の本来の持ち主が敵に捕まったらしい」
「詳しくは存じ上げませんが、海に棲んでいる方だとか。龍封玉が盗まれたあとに、今さら捕まりましたか」
「龍封玉を探すために陸に上がってたんだ」
「なるほど、その辺りの情報はまったく知りませんでしたね。ですが、こういう情報なら知っていますよ」
 彪彦はポケットからケータイを出した。それはシュバイツのケータイだった。
「車のキーは抜かれましたが、ケータイをわたくしから奪うのは忘れていたようですね」
 丸いサングラスの下で彪彦の口がニヤリと笑った。

-6-

 紫苑と彪彦は亜季菜たちと合流しようとしていた。
 鎌倉駅近くで2人が待っていると、キャデラックが現れて中から伊瀬が降りてきた。
「お待たせしました、どうぞ中へ」
 伊瀬は助手席と後部座席のドアを開けた。彪彦が助手席の乗り、紫苑が後部座席に乗り込む。後部座席には亜季菜もいた。
 彪彦は後部座席に顔を向けて亜季菜に頭を下げた。
「はじめまして姫野さん、姫野グループ会長の妹さんですね?」
 問われた亜季菜が紫苑に顔を向けると、紫苑は首を横に振った。
「亜季菜さんのことを私の口からは話してませんよ」
「じゃあなんでよ?」
 それは彪彦が答えた。
「もうお聞きかもしれませんが、わたくしはD∴C∴に所属しております」
「ええ、知ってるわ。愁斗クンからほとんど聞いていると思うわ」
「愁斗さんの周りの環境について徹底的に調べさせていただきました。物凄いパトロンが付いていたものです、貴女が隠蔽していたせいで愁斗さんを探すのに手間取りました。しかし、見つけてしまえば後は芋づる式に調べることは可能です」
 その話を聞いて亜季菜は小さく舌打ちした。
 愁斗がD∴C∴に監視されていることは、自分も監視されていると亜季菜は呑み込んだのだ。
 すでにアクセルを踏む準備をしていた伊瀬が問う。
「話に区切りがついたようでしたら、目的地を言ってください」
 彪彦はポケットからケータイを出して、メール本文を伊瀬に見せた。
「ここです、舞浜にある日本最大のテーマパークです」
 アクセルにかけていた伊瀬の足が外された。
「おそらく車より電車の方が早いですね」
 と、提案しつつも伊瀬は亜季菜の顔色を窺った。
「電車とかありえないわよ、普通列車ってみんな自由席なんでしょう?」
 確かに言い方によったら自由席だ。
 そのまま亜季菜は続けた。
「ヘリ呼びなさいヘリ」
「停める場所が……」
 少し小声で言う伊瀬に亜季菜は大声を出した。
「今の時期冬休みでしょう、学校とかないの学校? 校庭使っちゃいなさいよ」
 茅ヶ崎から鎌倉に来る途中、鎌倉駅の近くに学校らしきものがあったことを彪彦が覚えていた。
「ここの道路を海に下る途中にそれらしき物があったような気がします」
 亜季菜のゴー合図が出る前に伊瀬はアクセルを踏んでいた。
 大きな道路を海沿いへと下り、彪彦が行ったとおり学校があった。
 無許可で学校の敷地内に入ってヘリを待った。その間にシュバイツをとある駅で見失った鴉が合流した。
 ヘリは車や普通電車に比べて断然早い。
 しばらくして遠く上空から猛スピードでやって来たヘリが、小学校で4人と1匹を拾って、軽く時速180キロを越えるスピードで、ほぼ直線で舞浜に向かって飛行した。
 冬空は日が落ちるのが早く、すでに辺りは薄暗くなりはじめている。
 テーマパーク周辺のパーキングエリアに無理やりヘリを停めさせ、ヘリから降りるとテーマパークに入る前に彪彦が全員を止めた。
「ちょっと待ってください、電話をかけたい相手がいます」
 そう言って取り出したのはシュバイツのケータイだった。
 誰かに通話した彪彦は無言で相手が出るのを待った。
《おいシュバイツ、今まで何してたんだよ!》
 少年の声がスピーカーの向こうから響いた。キラだ。
「残念ながらシュバイツではありませんよ」
《誰だてめぇ!》
「影山彪彦です」
《……マジかよ、シュバイツはどうしたんだよ》
「途中まで追跡していたのですが、電車に乗られたところからわからなくなりまして」
 電話の向こうでキラが小声で話しているようだった。そして、何か物音がしてキラではない声がした。
《電話を代わったゾーラだ》
「ゾーラさんお久しぶりですね、お元気にしていましたか?」
《用件を手短に言え》
「このケータイに送られたメールにはリゾートと書いてありまして、ランドですかシーですか、それとも別の場所にいらっしゃるのですか?」
《キミはどこにいるのだね?》
「駐車場です」
《ならばこの場所から見えるかもしれんな。せいぜい頑張って探したまえ》
 通話が一方的に切られた。
 考え込む彪彦に視線は集中して、彪彦が発する次の言葉に耳が傾けられた。
「もしかしたらテーマパーク内ではないかもしれませんね、それらしい声や音がありませんでした。後ろから聴こえて来る音は強風の音くらいでしたかね」
 東京湾の近いこの場所は風の強い場所も多い。
 近くにいることはわかっているが、探すのは困難を極めそうだ。
 先ほど彪彦が言ったように、2つのテーマパーク内にいなければ範囲が狭まる。だが、もしもテーマパーク内にいた場合、その人口密集度から探すのは困難を極める。
 駐車場でじっとしていてもはじまらず、3組と1匹に分かれて散らばることにした。
 紫苑、彪彦、亜季菜と伊瀬、そして上空から鴉が探す。
 この場所で彼らはなにをしようとしているのか、そのことから紫苑は考えることにした。
 当初の目的地がここと言うことは、目的はテーマパークに集まる大勢の人と考えるのが自然だろう。水辺からも近く人が多く集まる場所だ。
 茅ヶ崎の被害から考えて、襲う標的に近ければ自分たちの命も危険に晒される。ならば、テーマパーク内というのは、彪彦の言葉を総合しても考えづらい。
 テーマパークの様子が見れて安全な場所。
 この周辺には多くのリゾートホテルが存在している。
 龍神は海からやって来る。
 紫苑は敵の狙いをランドではなくシーに絞った。理由はランドよりシーの方が湾に近いからだ。
 景色などを見渡すのであれば、高ければ高い場所のほうが良い。
 そして、最後に彪彦が言っていた強風と言うキーワード。
 総合して考えるにシーに一番近いホテルの屋上が適当だろう。
 紫苑を操る片手間で愁斗はパソコンも操っていた。ネットで自分が推理した場所に当てはまる場所を探す。そして、目星が付いた。
 モノレールを使ってリゾート全体囲うラインを走り、ベイサイドステーションから目的のホテルへと向かった。

 ホテルの屋上でキラは双眼鏡を覗いていた。光学ズームで遠く海面を眺め、波の動きを見張って胸を高鳴らせていた。