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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑アナザー

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「愁斗クンお待たせ〜!」
「中に入ろう大事な話がある」
「大事にゃ話って……ま、まさかアタシに告白!?」
 カラオケ店に入ろうとしていた愁斗の足が急に止まり、無表情ながらも怖い顔をして愁斗は振り返った。
「誤解だ」
「そうだよねー、愁斗クンには翔子って大切なひとがいるもんねー」
「…………」
 これに関して愁斗は無言だった。足早にカラオケ店へ消えていく。
 撫子もすぐに後を追った。
 2人はカウンターで受付を済ませ、個室へと足を運んだ。
 個室に着いた撫子はすぐにリモコンを手にして曲を入れようとした。その撫子の手を愁斗が掴んで止める。
「歌わなくていいから」
「えぇ〜っ、カラオケ来て歌わにゃいってありえにゃーい」
「?組織?のことで大事な話があるってメール送っただろう」
「まあまあ、そんにゃ話は置いといて、まずは飲み物でも注文して歌でも歌おうよ」
 撫子は壁に備え付けてある受話器を取った。
「飲み物お願いしまーす、ミルクティと……愁斗クンにゃにする?」
「なんでもいいから」
「じゃ、ミルクティ2つお願いしまーす」
 受話器を置いて撫子は振り向いた。
「そんじゃ歌っちゃおうかにゃー!」
「だから……歌わなくていいから」
「大事にゃ話してるとき店員が来たらイヤでしょ〜、それまでアタシのオンステージです!」
 さっそく曲のイントロが流れ、撫子が振りつきで歌いだす。
 隅に座っている愁斗はヤル気なさそうだ。
「愁斗クンも次歌うんだよぉ」
「……さっきお前のオンステージって言ったじゃないか」
「翔子カラオケ好きにゃんだよ、ちゃんとデートで連れて行ってあげにゃきゃダメだよん」
「…………」
 愁斗がこっそり曲の検索をしようとしているところで、店員がドアを開けて飲み物を運んできた。
 今までなにもしてなかったように、飲み物を受け取ってやり過ごした。
 歌い終わって新たな曲を入れようとしている撫子。愁斗は軽い咳払いをした。
「もういいだろ、急用なんだ」
「えぇ〜っ、あと1曲だけ、ねっねっねっ?」
「ダメだ。多くの人の命が関わっていることなんだ」
「はーい。で、話ってにゃに?」
 やっと本題の話に入れた。
「?組織?が関わっていると思われることを調べて欲しい」
「それって逆スパイしろということですか?」
 元々、撫子は魔導結社D∴C∴の施設〈白い家〉から脱走した子供、秋葉蘭魔の息子であるということを調べるために、愁斗と同じ学校に派遣されて来たのだ。
 今や愁斗がその子供であることは明白で、D∴C∴と愁斗が停戦している今も、撫子は愁斗の傍で監視を続けていた。
 もちろん、愁斗は撫子に監視されていることは承知である。
「無理なら誰でもいいから?組織?がやってる活動に詳しい奴を教えて欲しい」
「ムリムリ。ところでにゃに知りたいの?」
「茅ヶ崎に現れたドラゴンに関して」
「にゃ!? あれってウチがやったの! ……知らにゃかった」
「やっぱりお前じゃ話にならない、あの事件に詳しそうな奴を紹介してくれ」
「ムリムリ、アタシにそんにゃ権限にゃいもん。アタシはただの使いっパシリ」
 そのとき、撫子のケータイが鳴った。ナンバーディスプレイを見て撫子が嫌な顔をする。しかし、出ないわけにはいかなかった。
「もしもーし撫子ちゃんでーす」
 相手の言葉を聴いてさらに撫子は嫌な顔をした。
「はーい、わかりましたー」
 通話を切って撫子は愁斗と顔を見合わせた。
「来るって」
「誰が?」
「今のアタシの上司」
「……彼か?」
「愁斗クンの想像でたぶん当たり。実はあの人、ちょー変態にゃの。四六時中アタシのこと盗聴して、可憐な乙女のトイレの音も聴いてるんだよ」
「その愚痴も聴いてるんじゃないか?」
「はっ、しまった!!」
 ヤバイと撫子が表情に出したとほぼ同時、部屋のドアが開けられ黒尽くめの男が入って来た。
「わたくしを変態扱いするとは許せませんね」
 微笑む男を見て撫子は凍りついた。

-3-

 鴉のようなロングコートを着た肩には、鋭い眼つきをした本物の鴉が停まっていた。
 丸いサングラスの下で唇が嗤っている。
「あなたはいつ?組織?を裏切るかわかりませんから、そのための監視です」
 影山彪彦は撫子に顔を向けていた。
「にゃ、アタシが裏切るわけにゃいじゃん。そんにゃことしたらコワイコワイ」
「過去に嘘の報告をしたことをお忘れではありませんよね?」
「げっ、あ……あれは本当に愁斗クンが死んだように……思えたかも?」
 かなり動揺する撫子。
 過去に撫子は愁斗を追ってから巻くために、死んだと虚偽の報告をしたことがあったのだ。けれど、その報告もすぐに嘘とバレてしまった。
 彪彦はソファに腰掛け、撫子に注文を頼む。
「わたくしにも飲み物を。そうですね……外は寒かったですから、この中国茶なんて良さそうです」
 メニュー表の写真を指差して撫子に見せた。
「はいはい、そのお茶1つね」
 カウンターに注文を入れる撫子を置いて、彪彦は『さて』と前置いて愁斗に顔を向けた。
「茅ヶ崎に現れた龍について知りたいのでしたっけ?」
「そうだ、あれは本当に?組織?の仕業なのか?」
「そうとも言えますが、違うとも言えますね」
 どっちつかずの言い方に愁斗は眉をひそめた。
「どういうことだ?」
「うちの?組織?の組員がしたことには変わりないようですが、この頃うちの?組織?は内部で多く問題をかけておりまして、いわゆる内部分裂と言うものですね」
「それはつまり今回の件は本体の意向ではないと?」
「そういうことになりますかね」
 ならばもしかしたらという気持ちが愁斗に過ぎる。
「僕が今回の件に首を突っ込んでも問題はあるか?」
「どのように突っ込むかによりますが?」
「今回の計画を阻止する」
「なるほど……本部としては大喜びでしょうが、今回の件に関わる過激派に目を付けられるかもしれませんね」
 50:50と言うところだろうか。
 今の愁斗が?組織?に牙を向けば周りにも被害が及ぶ。けれど、今回の件に関しては、手を出しても?組織?本体からの制裁はない。それでも、本体以外からの制裁はあるかもしれない。
 彪彦は言葉を付け加えた。
「愁斗さんのことを知る者は?組織?でもごく一部です。そもそも施設から逃げ出した子供を知る者も少ないですから。過激派に狙われるとしても、我々が愁斗さんを探していた理由ではなく、今回の件を邪魔された件についてだけでしょう」
 当たり前の話として組織などの構成員が、組織の活動や事情を全て知っているはずがない。愁斗のことを知る者もいれば、知らない者もいる。彪彦は今回の過激派は知らないと判断していた。
 ここで愁斗は推理を働かせていた。
「もしかして今回の事件に関わっている者を知っているのか?」
「大よその検討はついていますよ。実は、わたくしは今回の件の収集を命じられている1人でして、多くの情報を握らせていただいております」
「教えて欲しい」
「無理をなさならいと約束であれば」
 愁斗が無言で頷き、彪彦も静かに頷いた。
「ではお教えしましょう。情報によりますと、鎌倉に潜伏しているとのことです。現地にはすでに?組織?の構成員が忍び込んでいます」
「鎌倉のどこに?」