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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑アナザー

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 そのままゾーラはキラに顔を向けた。
「活躍を期待する」
「大活躍するぜ」
 自信に満ち溢れたキラの顔を見ることなく、ゾーラはマント翻して部屋を後にした。

 せっかく遠い漁村まで来たというのに、またすぐに移動する方向で話が進んでいた。
「ちょっとなによ、また何時間も運転しなきゃいけないわけ?」
 怒り出す亜季菜に愁斗は首を振った。
「いえ、もうすぐヘリの迎えが来ます」
「ヘリが来るってどういうことよ?」
「伊瀬さんを呼びました」
「愁斗クーン! 裏切ったわね!!」
「別にそういうわけじゃありません」
 怒る亜季菜と受け流す愁斗。
 それを横で見ていた瑠璃は申し訳なさそうな顔をしていた。
「私のせいでごめんなさい。本来は私の方から愁斗様の元へ出向かねばならなかったのですが、広い世界のどこに愁斗様がいるのかわからなくて、結果的に愁斗様の方に私を探させてしまいました」
 愁斗がする質問を代わりに亜季菜がする。
「どうして愁斗クンの力が必要なのよ?」
「それは――」
 瑠璃が答える前に愁斗が口を挿んだ。
「ヘリが来ました。続きは移動しながら話しましょう」
 波を立て、砂を巻き上げ、大型ヘリが上空から降下してくる。
 砂煙を浴びて亜季菜は咳き込んでいた。今日はなんだかツイてない日だ。
 砂浜に降りたヘリからスーツを着た伊瀬が降りてくる。
「皆様、お待たせいたしました。どうぞ足元にお気をつけてお乗りください」
 伊瀬の横を抜けるとき亜季菜はアッカンベーをした。
 3人を新たに乗せてヘリは上昇をはじめ、機内で先ほどの話が続けられた。
「私が愁斗様の力を必用とした理由ですが、それは地上人で他に頼れる方がいなかったからです」
 その言葉が意味するところは、海ではなく地上で問題が起きたということだ。
 亜季菜が口を挿む。
「ところで茅ヶ崎の海岸に現れた怪物なんだけど、あれあなたと関係あるわけ?」
「はい、あのような事態が起きぬように私たちはある秘法を守っていました」
 それには愁斗も心当たりあがった。
「たしか龍封玉でしたか?」
「そうです、その龍封玉が盗まれてしまったのです」
 以前、幼い愁斗が巻き込まれた龍封玉を巡る戦い。真珠姫の死と、瑠璃の子である海男の死によって、戦いは幕を閉じたはずだった。あれ以降の出来事は愁斗の知るところではない。
 あの戦いのときも、龍封玉の在り処が愁斗に教えられることはなかった。
「抜け殻となった海男の身体は海へ還り、龍封玉だけが私の手元に残りました。龍封玉は海男の体内に隠されていたのです」
 と、瑠璃は目を伏せて語った。
 その事実を知らなかった真珠姫の手によって、海男は刹那に止めを刺された。そして、死んだ海男は母と共に海に帰ったのだった。
 事情を知る愁斗には大よそが伝わったが、亜季菜にはまだわからない部分が多い。
「その龍封玉について詳しく教えてくれないかしら?」
 尋ねる亜季菜に瑠璃は深く頷いた。
「はい、龍封玉とは私たちの先祖が凶悪な龍神を封じ込めていたものです」
 亜季菜はこの言葉ですべてが理解できたような気がした。
「茅ヶ崎に現れた怪物はその龍封玉とかいうのに封印されていたわね。ならまた封印して一軒略着ね」
 口で言うならそれだけだが、実際は簡単にいかないのが世の常だ。
 先にも述べたが龍封玉が盗まれたらしい。まずは犯人を見つけることが先決かもしれない。
 愁斗が尋ねる。
「龍封玉を盗んだ相手の心当たりは?」
「確か魔導士の男がダークネス・クライと名乗ったと思います」
 それを聴いた愁斗は眼を見開き、辺りの空気が一瞬にして氷結した。
 D∴C∴[ダークネスクライ]とは、愁斗が復讐すべき最大の敵。社会の闇に潜む魔導結社の名前だ。
 しかし、現状ではD∴C∴との戦いは休戦状態であった。
 今の愁斗には失いたくないものがたくさんある。いざ、D∴C∴との全面戦争になれば、大切なものを失うことは目に見えていた。
 ――もうなにも失いたくない。
「僕は協力できないかもしれません」
 愁斗の言葉を聴いた瑠璃は哀しそうな顔をしていた。
「なぜですか?」
「僕はD∴C∴に目を付けられています。僕がD∴C∴に手を出せば、多くの人の命が危険にさらされます」
「だからと言って龍神を野放しにするのですか、そうなれば多くの人の命が失われるのですよ」
「……僕には関係のない人たちですから」
 塞ぎこんだ愁斗は遠くの景色を眺めた。
 愁斗は自分が正義だと思ったことはない。どちらかというのならば悪だろう。恐ろしい〈闇〉の力を操り、多くの人を殺してきた。
 それが、なぜか最近、正しい道について考えてしまうことが多くなった。
 昔の愁斗とは変わってしまった。
 愁斗は自分の心が弱くなってしまったと感じていた。
 守るべきものができて弱くなってしまった。〈闇〉を操ることにすら不安を覚えるようになってしまった。そのうち戦うことすらできなくなるのではと、恐怖にも似た想いを抱いていた。
 ヘリは都内に入り亜季菜が所有する会社の屋上に降りた。
 そこについても愁斗は塞ぎ込んだままだった。
 自分が今何をするべきなのか、未だに迷ってしまっている。
 関係ないという決断ができれば、この場で瑠璃たちと別れただろう。
 しかし、その決断のできなかった愁斗は、瑠璃や亜季菜と共に社長室へと足を運んだ。
 社長室に集まったのは4人だけ。外部の者には話を聞かれたくない。
 愁斗、瑠璃、亜季菜、伊瀬。4人はテーブルの周りにソファを囲み座った。
 未だに愁斗は塞ぎ込んだまま、伊瀬は必要となければ無闇に口を挿まない。話し合いは大よそ亜季菜と瑠璃で勧められていくだろう。
 まずは亜季菜が口を開く。
「今回の件に関して、アタシは瑠璃さんに全面的に協力するわよ」
「本当ですか、ありがとうございます」
 純粋な気持ちでお礼をいう瑠璃の気持ちとは裏腹に、やはり亜季菜にはビジネスの思惑がある。
「龍封玉のことなのだけれど、取り戻せば再び怪物を封印できるわけなの?」
「そうです、龍封玉を盗み出したのは地上人ですから、きっと地上のどこかにいるはずなのです」
「検討はないわけなの?」
「本来ならば大よその位置がわかるはずなのですが、なにか特殊な措置をしたらしく、まったくどこかわかりません。このままでは龍神を操り、地上の人々だけではなく、私たち海の民にも甚大な被害がでるでしょう」
 亜季菜の眼つきが変わった。
「ちょっと待って、操るって言った?」
 これはチャンスかもしれなかった。
「はい、龍封玉に封じられた龍神は、完全に解き放たれない限り操ることができます。ただし、それには力のある海の民が必要ですが」
 誰にでも操れるわけではないらしいが、操れるとわかればビジネス利用の可能性が高くなる。
 急に愁斗が席を立った。
「急用ができました、失礼します」
 背を向けて立ち去る愁斗。
 瑠璃は哀しそうな顔をして呼び止めた。
「愁斗様……」
 それでも愁斗は振り向かずに部屋を後にした。

 愁斗はケータイである人物を呼び出した。
 カラオケ店の前で待ち合わせの相手を待つ。
 待ち合わせの場所に現れたのは、同じ学校に通う同級生の撫子だった。