小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

傀儡師紫苑アナザー

INDEX|18ページ/40ページ|

次のページ前のページ
 

 この?力?について、桂木は身にしみて理解していた。あのとき、自分の意思に反し身体を動かされ、抵抗するが激しい痛みが身体の芯を貫き、抵抗をすることも止めても無理やり動かされる身体には痛みが走ったのだった。あれが意図した痛みでないとしたら、意図して痛みを与えたときの痛みは想像を絶する。
 桂木の表情は怯えきっていた。いつか傀儡を通して愁斗が見たときよりも怯えている。
 設計図を盗み出し転売しようとした割には、小動物のように震え上がる小心者のようだ。
 恐怖は限界まで達し、防波堤が崩れたように桂木は口を開く。
「駅だ、駅にある。駅のロッカー、コインロッカーに隠してある」
「鍵はどこに?」
 愁斗の口調は刃物のように研ぎ澄まされていた。
「鍵はここだ。私の背広の内ポケットに入ってる」
 近藤が無造作に桂木の背広の内ポケットを探り、小さな鍵を見つけ出した。確かにそれはコインロッカーの鍵のようだった。
 近藤が桂木の胸倉を掴んだ。
「どこの駅だ!」
「羽呂[ハロ]駅だよ、羽呂駅の南口にあるコインロッカーだよ」
 脂汗をじっとりと掻き、蒼ざめた顔をする桂木の言葉に嘘はないように思える。そこに愁斗が追い討ちを掛ける。
「嘘だった場合はそれ相応の手段を取らせてもらいます」
 桂木は震えながら頷いた。震えすぎて首を縦に振っているのか横に振っているのかわからない。
 羽呂駅は現在いる駅から、6つ行ったところにある駅だ。今来た道とは反対方向にある。だとしても、ヴァージニアと鉢合わせということはまずないだろう。
 車は一路、羽呂駅へと向かう。念のため、この場所で他の色のバンに乗り換えるという念を入れた。あの駅で騒ぎを越したことと、ヴァージニアへの警戒のためだ。
 線路沿いに車を走らせ、5つの駅を跨ぎ辺りの景色にビルが増えてきた。もうすぐ羽呂駅だ。
 羽呂駅近くで近藤が車から降り、桂木や愁斗たちを残して駅の中に入っていった。
 いくつかの路線が交わる羽呂駅は大きく、ショッピングモールも隣接しているために人通りが多い。この街で人を探すのは大変だろう。紛れてしまったら見つからないかもしれない。
 ――しばらくして、近藤が早足で戻ってきた。
 近藤はバンの中に戻るなり、桂木の胸倉に掴みかかった。
「おい、設計図はどこだ! ロッカーの中は空だったぞ!」
 この言葉を聞いて桂木は飛び出しそうなくらい眼を見開き、血の気の引いた蒼白い顔を振るわせた。
 否定の言葉を発したかったが、喉もカラカラで桂木は口をあんぐりままだ。
「あ……あが……そ、なんな……」
 『そんなばかな』とでも言いたかったのかもしれない。だが、近藤の追及は激しさを増した。
「よくも騙したな、まずは手の指からへし折ってやる!」
「……違う、ちが……違うんだ」
「なにがだ!」
「嘘なんて言ってない信じてくれ!!」
 心の底から叫んだ。そこ叫びが通じたのか、桂木と近藤の間に愁斗が割って入る。
「近藤さん冷静に、彼の言い分を聞きましょう」
 無感情の声に近藤の頭からすっと熱が抜け、踵を浮かせていた桂木の足が地面につくことを許された。
 桂木の胸倉か手を放した近藤は、腕を組んで再び追及をはじめた。
「ゆっくりでいい、話せ」
 ごくりと唾を呑んで桂木が話しはじめる。
「だから違うんだ、私は嘘なんかついていない。あの確かにロッカーに入れておいたんだ、本当だ、本当なんだ、信じてくれ」
 もし、桂木の言っていることが本当ならば、設計図はどこに行ってしまったのか?
「盗まれたということでしょうか?」
 愁斗は周りの男たちを見回して同意を求めた。
「おそらくそうだろう」
 と近藤。
 だが、盗まれたとしたら、誰が盗んだのか?
 設計図は新兵器の設計図で、それを狙うものは数知れない。ライバル企業かもしれないし、軍関係かもしれない。その中から盗んだ相手を特定するには情報が少なすぎる。
 すぐに設計図が紛失したことを連絡し、桂木の身柄は別の場所に移されることになった。だが、その前に桂木がコインロッカーまで連れて行ってくれと申し出をしたのだ。設計図が盗まれたことに納得していないのかもしれない。
 桂木を連れ近藤が再びコインロッカーまで行くことになった。これに愁斗は同行し、桂木の身体の一部を一時的に自由にした。
 駅ビルは人で混雑している。
 コインロッカーが並ぶ一角で足が止まる。
 近藤がコインロッカーを再び開けるが、やはり中にはなにもない。中が空であることを全員で確認し、一斉に桂木へと眼が向けられた。
 靴紐を直していたらしい桂木が立ち上がり、コインロッカーの前に歩み寄った。
「違うんだ、そのロッカーじゃないんだ」
 誰もが『なにを言ってるんだ?』という顔をした。
 桂木は近藤が開けたロッカーとは違うロッカーを開け、中から茶色い紙袋を取り出した。
 刹那、閃光が辺りを包んだ。
 視界は白で遮られ、辺りであがった叫び声だけが耳に届いた。
 眼をやられながらも、愁斗の指先は微かな動きを捉えた。
「逃げました、桂木が逃げました!」
 だが、桂木の身体には妖糸が巻きつけられている。これを辿ればすぐに追いつくことができる。
 視界が直らないまま愁斗は桂木を追って走りはじめたのだった。

 桂木は見事に逃げたのだ。こうやって何度も危険を潜り抜けてきた。
 ダミーのコインロッカーの鍵を渡し、逃げるチャンスを作るためにバンの外に出て、コインロッカーまで行くのも桂木が話を誘導したのだ。あとは靴紐を直すふりをして、靴の中に隠してあった鍵を取り出した。
 駅内を走り、愁斗たちと距離が開いたところで早足に代えた。人ごみに紛れてしまえば勝ちだ。そう桂木は高をくくっていた。
 だが、恐怖は後ろから迫っていた。
 数多くの危険を掻い潜る才能を持つ桂木は、その手の雰囲気を感知する能力に長けていたのだ。
 後ろから迫り来るプレッシャー。
 自分を追ってくる者がいることを感じた桂木は後ろを振り返った。
 人ごみの中にいても、その自分物だけが浮いたように見える。他の人から見ればただの学生だ。どこにでもいうそうな学生にしか見えない。しかし、桂木の目には鬼気迫るモノが見えたのだ。
 どうやって自分を追ってきた?
 可能性はあった。
 あの不思議な術だ。
 身体を拘束していた謎の力。あの力がまだ身体についているのかもしれない。それを追ってきたに違い。
 身体のどこを見回しても、その力がどこについているのかわからない。不可視の力がついている。それを取り払わなければ、どこまでも追われてしまう。だが、桂木にはどうする術もなかった。
 逃げ回っていても捕まるのは時間の問題だ。
 桂木は足を止めた。
 すぐに桂木の方に手が乗せられた。
「逃げても無駄ですよ」
「わかってる。だから足を止めたんだ」
 一切の震えも含んでいない声音。
 桂木は振り返って愁斗に顔を向けるが、やはりその顔は怯えを含んでいなかった。
「逃げ切れる計算だったのだが、どうやら君の方が私より上手だったらしい」
「そんなことはありません。すっかり僕はあなたの演技に騙されてしまいましたから。しかし、もうあなたのことは決して逃がしませんよ」
「……くっ」