いまどき(現時)物語
しかし、高見沢は浮舟の人生の師匠としてのポジションを忘れ、
「だけどなあ、こんな未来のない連帯関係なんか、皆で破壊してしまえばいいじゃん」と、エモーショナルに言い放つ。
されど浮舟、さすが色恋の苦労の中で生きて来た平安時代のお姫様、そんな高見沢に自分の推理を冷静に述べて来る。
「そう、私も高見沢さんの意見を否定しないわ、
椿子に可奈子、それに桜木君、少なくともこの三人達は、このドロドロの愛憎関係を壊してしまって、一からやり直したいと思った事が一度はあったでしょうね、
だけど、自ら壊してみたところで、ここまで築き上げて来た生活が崩壊するだけでしょ、今以上の幸せが将来保証されるものかどうかもわからないわ」
高見沢は「うん、うん」とただただ相槌を打っている。
「それにね、もっと言えば、一旦壊れ始めればね、何もかもトコトン壊れてしまう危険を秘めているわ、この愛と憎悪の関係、問題先送りでズルズルとここまで来てしまった、
だけど、この先何が起こるかわからない、それが全員の運命なのかもね、
だから朝霧だけがこのまま知らない状態が一番安全じゃないかと私思うわ、
だけど、もう限界ね」
浮舟の推理に自信が満ちている。
高見沢は、その迫力に押されたのか、
「さすが浮舟、まさに宇治十帖のヒロイン、これぞ愛欲人生の達人、マエストラだ」と感嘆の声を上げざるを得ない。
そして浮舟は、少し荒っぽくなった高見沢との会話を、殊勝にも優しく包み返して来る。
「こんなにも自己表現出来るようになったのも、全部高見沢さんのお陰よ、ありがとうございます」
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊