いまどき(現時)物語
高見沢は煩悩一杯のサラリーマン、されど、これほどまでの色恋のドロドロした世界にはてっきり縁がない。
そんな高見沢に、浮舟は平安時代の色恋物語の先輩として、諭すが如く話しを続けて来るのだ。
「高見沢さん、ここは百八つの煩悩が渦巻いている人間界よ、
一千年前の源氏物語の世界が、現代社会のオフィスへと引き継がれて来ているのよ、まあ、そう億劫がらないでもう少し話しを聞いてよ」
「ああ、浮舟の初仕事だから、辛抱するけどね」
高見沢は浮舟のトレーナーである以上、ここで止めるわけには行かない。
「それで、朝霧だけが、こんなややこしい愛と憎しみの四角関係になっている事を知らないという事だね?」
「そうよ、高見沢さん、朝霧は感度が鈍くって、真実を知らないのだけど、他の三人は、およそこのような乱れた四人の関係を知っているわ、
そこがまさにキーポイントなのよ」と浮舟は言って、我が意を得たりという顔をしている。
「朝霧一人が蚊帳の外か、何かそこに不思議な微妙さの因って来る所を感じるよなあ」
「高見沢さん、私も同じように感じるわ、
今にも破壊されてしまいそうな危なかしい四人の関係、
朝霧が知らないから、
それはそれなりにあるバランスを保ちながら、壊れずにここ何年も続いて来たのだと思うの」
浮舟も不思議な微妙さを、そこに感じ取っているようだ。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊