いまどき(現時)物語
高見沢は、リフレッシュにと冷えた水で思いっ切り顔を洗った。
そして、パンパンと顔をたたき、気合いを入れ直して席へと戻る。
女影武者からの報告の再開だ。
「色で乱れた世間話しかも知れない、されど犯人を突き止めるためには避けては通れない、それで三人目は?」
高見沢の質問で再び口火が切られた。
「三人目は部下の桜木君よ、
朝霧の下で長年仕えて来たが、虐められ放しで、あまり良い処遇を受けて来ていないわ、何故かわからないけれど、これがまた異常なパワハラなのよね」と、浮舟は全くペースを落とさずに話して来る。
「上司朝霧が権限乱用し、桜木へのパワハラのし放題か、何かそこに他の理由があるのかも知れないが、まあ桜木もよく耐えてやって来たよなあ、ホント可哀想と言うか立派なヤツだよ」
高見沢のトーンが少し柔らかくなっている。
「ホント、朝霧の出世のために都合良くずっと扱き使われて来たみたいよ、そんな事で桜木君は朝霧をかなり憎んでもいるわ」
「そらそうだよ、パワハラの憎しみは怖いんだぞ」と、高見沢は自分自身に照らし合わせ、目一杯の同情を表わしている。
「だけどね、高見沢さん、想像してみて、桜木君もただ一つ優越感を味わえる事があるの、それはね、朝霧の妻の椿子を寝取ってしまっている事よ」
「確かに、桜木は密かに朝霧をバカにしているのかもなあ」
高見沢は思い付くままに答えながら、
「浮舟って、まあ何と物事をえぐく暴いて行くオナゴなんだ、女影武者がホント天職となるよ」とただただ感心している。
浮舟の方は、どうもまだ話しに集中し切れずブツブツ呟いているだけの高見沢を睨み付けて来る。
「こんな事が、独占欲の強い朝霧部長にバレれば、桜木君は会社から間違いなく追放されてしまうわよね、はい、高見沢さんの御意見は?」
「ああ、一流企業のサラリーマン・桜木にとっては、それはちょっと辛い事かもな、そのようにならない事を願ってやるよ」と、高見沢はまだ同情している。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊