いまどき(現時)物語
「と言うのも、椿子は、ずっと同期入社の可奈子と争って来た、
最初の争いは朝霧の争奪戦だったの、椿子は朝霧と結婚してその戦いに勝ったわ、
だけど今回は、反対に可奈子が椿子の不倫相手の桜木君に急接近し、桜木君を奪い取ろうとしているのよ、
それでね、椿子にとっては不幸な話しなのだけど、今、桜木君の方も椿子から可奈子へと鞍替えしようとしかけているのよね」
「そんな不道徳な事が、俺が住んでるこの近くの世間で起こってるのか、そりゃ限界かもなあ」と、高見沢はもう開いた口が塞がらない。
「高見沢さん、椿子はね、このまま行けば、二人の男を失ってしまうって思っているわ、だから、たとえ仮面夫婦でも良いから朝霧だけでも繋ぎ止めておきたいと、
だって愛はなくても妻である事には変わりはないし、地位とお金は保証されているわ」
浮舟は、ここまで話し込んで来ても全く疲れを見せない。
高見沢は、そんな浮舟に感度良く応答して行けないが、浮舟のこの過激な話しをまとめるように、思うところを述べてみる。
「椿子夫人か、夫に裏切られ、愛人の桜木にも逃げられるかも知れない、まあ今は憎しみの固まりだろうなあ、
こんなになってしまったのも発端は朝霧の不倫、
とにかく朝霧と可奈子が憎い、それで永遠に苦しめてやりたいと思い、他人になりすまし、妻が夫を強請る、そんな事もあり得るかもなあ」
高見沢はそう推理したものの、愛と金の底なしの愛憎話しに急に疲れを覚えて来た。
「うーん、金さえ繋がっていれば何でもありかよ … 浮舟、スマナイ、ここらでちょっとショートブレークしない?」
高見沢は思い切って申し入れてみた。
「御意、御主人様の命のままに」と、浮舟は元気一杯に返して来る。
高見沢は「アンガトー」とただ一言言い残し、レストルームへと席を立つのだった。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊