いまどき(現時)物語
「ところで、妻の椿子は … 朝霧と可奈子の不倫の事を知ってるの?」
高見沢は息を潜めながら浮舟に聞いてみた。
「何を言っているの、高見沢さん、もちろんのもちろんよ、
椿子は、夫が元友人の可奈子と不倫関係にある事くらい、ちゃんと御承知の上よ、女は勘が良くって恐いわよ」
浮舟は待ってましたとばかりだ。
高見沢は「さすが、女だね」と言いながら、背筋が寒くなって来る。
「だって高見沢さん、夫の朝霧が最初に裏切ったのよ、そんな孤独の中で、椿子はかって同じオフィスで働いていた同年輩の桜木君にすがったのよね、
多分優しくしてくれたんでしょうね、社会的には認められない事なんだけど、
椿子はきっとそこに自分の愛の居場所を見付けたんでしょうよ、これは女の性ね」
浮舟は今度は同情的な事を言っている。
「だけど、そんなのだったら、椿子は朝霧とさっさと別れ、桜木と二人で最初からやり直せば良いじゃん」
「高見沢さん、ちょっとそこがわからないところなんだけど、
朝霧を捨てて桜木君の所に飛び込んで、これからの老い行く生涯を一緒に暮らして行くには、金銭も含めて、ちょっとリスクが高過ぎると思っているのでしょうね、
それで朝霧との仮面夫婦を長年辛抱強く演じ続けて来たのよ、だけどもう限界に来ていると思うわ」
「限界? それ、どういう意味?」
高見沢はまたまた浮舟の言葉が完全に飲み込めない。
浮舟はそれに反し、乗りに乗って来ているのだ。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊