いまどき(現時)物語
「俺は小心者でそんな大胆な事は出来ないよ、落花流水の情、心乱さず糟糠の妻を愛し、日々感謝しながら、淡々と平和に暮らして行く、これが俺のライフスタイルだよ」
高見沢は身の潔白を思い切り主張する。
浮舟は「それはそれはシッツレイ致しヤンした」と、どこで憶えて来たのか、多分御主人様の口調が乗り移ってしまったのだろう、ふざけた返事を返して来る。
そして、組んでいる色気な足をそろっと下ろし、姿勢をきりっと直す。
「朝霧はね、年も取って来たし、仕事も佳境に入って来た、これからの会社人生の事を考えると、可奈子と不倫を続ける事はリスクが高過ぎるかも知れないと感じ始めたのよ、
残る人生を妻・椿子ともう一度歩み直してみようかと、
だけど可奈子に未練が残り縁が切れない、ホント、原点回帰出来ないミー・ファースト男(me-first : 自己中)よ」
「何という中途半端なやっちゃ」
「そう、まったく身勝手で、嫌な男だわ」
朝霧に対して、主従二人の嫌悪感が一致したのか、二人ともそろって大きく「ふー」と息を吐いた。
そして、高見沢はもう一度じっくり相関図を見ながら、「この図によると、妻は妻で不倫しているんだろ?」と、浮舟に言葉を投げ掛ける。
「その通りよ、だけどね、朝霧みたいに仕事がよく出来る男でも、やっぱり男は男ね、どこか抜けているところがあるのよ、ホント馬鹿なのよね」
浮舟はある一種の軽蔑を込めて話して来る。
「それ、どういう意味だよ?」
「朝霧はね、妻・椿子が部下・桜木君と不倫関係にある事を全く知らないのよね、
朝霧は反対に妻に騙されているのよ」
浮舟は戸惑いもなく驚きの事実を言ってのけてしまって、可憐な色香を漂わせている。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊