いまどき(現時)物語
高見沢一郎にとっては久方振りの邪馬台国への出勤だ。
祇園桜見小路近くにある地下三階の入口、その重いドアを開いて中へ入って行った。
そこに存在するものは、まさに別世界。
シーンと静まりかえり、薄っすらと靄が掛かっている。
喧騒な俗世間からは、全くかけ離れた神秘な空間がある。
高見沢は現れたマキコ・マネージャーに軽く挨拶をし、その先導で会議室に通された。
猩猩緋色(しょうじょうひいろ)の壁に、どこから読んでも解読出来そうもない古代文字の書が掛けてある。
そして、脳を惑わす幽玄な伽藍香(きゃらこう)の匂い。
二人はおもむろに向き合って座る。
高見沢は、こういう他人行儀なシチュエーション(場)はあまり得意ではない。
いつも我慢出来ずに会話の口火を切ってしまう。
それも見え見えで調子の良い事を口走ってしまうのだ。
「マキちゃん、いつまで経っても若くって、ベッピンさんだね、ホンマ、クラクラするで」
マキコ・マネージャーは、いつもながらの高見沢の浮ついた誉め殺しを特に気にする事もなく、軽く流してしまう。
「それはそれは、どうもごちそう様」
高見沢は、そんな素っ気のないリアクションが物足りない。
ミッション遂行をして行くパートナーに久し振りに会った。
まずはその喜びを分かち合うのが一番、己の欲するところを申し出るのだ。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊