いまどき(現時)物語
そんな一瞬、反射的に思い出したのだ。
「だけどなあ、沖縄はホント暖かく気持ち良かったよなあ …
そっか、思い出したよ、確かレンタカーのナビ、この辺に邪馬台国の入口があるって表示してたよなあ、ちょっと冒険してみるか」
高見沢は、記憶を蘇らせながら桜見小路東入った辺りを探し歩いた。
夜の花街を彩るサインボード、高見沢は丁寧に探索し、そして一つのボードの最下段に、邪馬台国と小さく書かれてある文字を見付けた。
高見沢は案内通り地下三階へと下りて行き、遂に邪馬台国への入口へと辿り着いたのだ。
「高見沢様、中へどうぞ」
高見沢は、甘い誘いに導かれて女王国へと入り込んでしまった。
そしてそこには、喧騒な現代社会からは想像も付かない全くかけ離れた厳かな空間があった。
それにも増しての驚きは、女王国はハイテクとバイオ最先端技術を駆使する世界だったのだ。
高見沢は、ホモサピエンス祖先調査のためのDNAチェックを経て、美しい緑の瞳を持つ卑弥呼女王に謁見をした。
邪馬台国の女王たる証は、グリーン・アイズ(緑の目)。
卑弥呼女王はその輝く瞳のDNAを守り、女王国の永遠の繁栄と存続を祈願して、高見沢にミッションを与えた。
「グリーン・アイズを探し、邪馬台国に連れて来て、種の保存に貢献せよ」
女王の声が威厳高く、そして朗々とジュダイの神殿をイメージさせる大きな空間に響き渡った。
高見沢一郎、ウダウダとそれはそれなりに会社業務をこなし、多忙ながら複雑に生きて来たベテラン・サラリーマン。
しかし、こんな摩訶不思議で非日常的な出来事に遭遇し、心底感銘を覚えたのは初めての事だった。
このようにして、ミッションの成就こそが残された人生の最重要個人プロジェクトとなってしまったのだった。
そして意欲と情熱は、まさにテンコモリ。
されど、難題を抱えてしまった。
それは、このプロジェクトのパートナーが、邪馬台国で情報部長を張るマキコ・マネージャーという事なのだ。
幸か不幸か、どちらかと言えばやはり不幸な事なのだろう、
実にこのパートナーが、まるで欲求不満の上司のように五月蝿いお姉だったのだ。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊