いまどき(現時)物語
高見沢一郎、京都在住のそれはそれなりのお疲れサラリーマン。
満身創痍(まんしんそうい)ながら随分サラリーマン人生を長くやって来た。
そんな彼が、今、この大都会の駅のホームに一人ぽつんと立っている。
その後ろ姿は悲哀でもある。
この夏向けに折角スーツを新調したのに、「アンタ、もうちょっと皺も背筋もシャキッと伸ばしたら」と声を掛けたくなる。
今、精神はメッチャ傷だらけ。
思考はパーフェクトにネガティブ。
思わず一人吐いてしまう言葉が実に弱々しい。
「ホント俺、暗〜いよ … もう少し晴々とした気分で毎日を暮らしてみたいよなあ」
言い換えれば、野っ原の野壺に完全に落ち込んでしまった状態。
されどだ、
そんな高見沢を、今暮れなずむ都会の夕暮れが柔らかくも優しく包み込んで行く。
そして和まし、癒してくれるのだ。
ぽつりぽつりと点り出した街灯り、その谷間の向こうに見えるほのかな遠景。
そこから光の粒が放たれて来る。
淡い光達が戯れ遊んでいるようでもある。
高見沢はじっと目を凝らして、天空へと聳え立つ高層ビルを見る。
不確かな輪郭のせいなのか、その立ち姿が艶(なまめ)かしくも美しい。
高見沢はそんな視界情報を、破壊が進み潰れ掛けている感性でぎこちなく受け入れ始めた。
そして右脳に入力し出している。
徐々にではあるが、高見沢本来の生命力が蘇って来た。
「まっいっか … その内に何か良い事、多分あるかもな」
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊