いまどき(現時)物語
夕顔は待ってましたとばかり答えて来る。
「年経とも変はらむものか橘の小島の崎に契る心は … と言うのよ、
意味は、橘のように何年経っても変わりませんよ、橘の小島の崎で、貴方を愛し続けると約束します、どうお、高見沢さん」
「へえ、そんな浮ついた事、匂宮もよく言うよな」
「そうよ、プレーボーイだもんね、匂宮の強引さと勝手が滲み出ているでしょ、浮舟は真面目な薫の愛が負担となって行く、その反面、強引にも抱いてくれた匂宮に心がどんどん傾いて行く、そんな自分がどうしようもなくなって行くのね」
高見沢は、「そんなものなのかなあ」と思いながら聞いている。
夕顔は自分の話しに陶酔しているのか、少しウルウルと来ている。
「それで、ここにある通り浮舟は、歌を返しているの、
橘の小島の色は変わらじをこの浮舟ぞ行方知られぬ
この意味はね、橘が一杯の小島の色のように貴方様の心は変わらないだろうけど、この水に浮く小さな浮舟のような私の身は、どこへ漂い行ってしまうんでしょうね、
反対に言えば、もう自分自身をコントロール出来ません、だから、匂宮さん、どこへでも連れて行って下さい、こう恋焦がれているのよ」
「ふうん、身体を無理矢理に奪われてしまってもかね、それが女の性というやつなのか?
それじゃまるで雌猫じゃん」
「高見沢さん、決して勘違いしないで、匂宮がいい男だったからよ、だから安心して、高見沢さんじゃあり得ない事だから …
それで浮舟は、薫の重い愛からは逃避したい、それに反して、匂宮を待つ身が苦しい、だけどいつまで経ってもこの三角関係の愛の決着が付かない、浮舟は疲れてしまって、最終的に身を投げる事を決意するのよ、
この激しくも美しい悲恋物語、突き詰めれば、女の性と、もののあはれの極みよ、ホント痺れるわ」
夕顔は一人酔ってしまっているようだ。
そして高見沢は、「俺には、よく理解出来ないなあ」と呟きながら、急に首筋辺りがむず痒くなり、ポリポリと掻かざるを得なくなるのだった。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊