いまどき(現時)物語
「スっゲーなあ、宇治十帖って、実話だったのか、
夕顔さん、俺、あんまりラブストーリーに縁がなく、得意じゃないのだけど、
匂宮って、確か薫と偽って浮舟の寝所に侵入し、無理矢理に契りを結んでしまうんだったよね、これって今風に言えば、強姦なんだろ?」
「そうよ、平安時代はそういう文化だったのよ」と、夕顔はあっさりとしたもの。
「だけど、こんな仕打ちに合っていても、浮舟は、生真面目な薫より、プレイボーイ・匂宮の方に心を奪われて行くんだったよね」
「その通りよ、生真面目な男の重い愛より、結局、女は激しい愛が好きなの、
尽きる所は肉体の甘美よ、いつの世もその喜びを本能的に与えてくれる男が好きになってしまうんだよね」
夕顔がえらく自分の言葉に酔っている。
一方サラリーマン・高見沢は、毎日針の筵に座りながらも、耐え忍び生真面目にも生きて来た。
こんな男と女の話しを断定的に聞かされても、ますます女という生物が、何をもって生きているのかわからなくなってしまう。
「へえ、そういうものなんかね、だけど夕顔はん、ちょっと思考に偏りがあるようにも思うんだけどね」と、世の生真面目男を代表してもの申してみた。
「あのね、高見沢さん、全然わかっていないのね、女の気持ちは思考じゃないわ、素晴らしい事に官能の方が優れているの、それがどうする事も出来ない女の性というものなのよ」と夕顔は澄ましている。
高見沢はここまで夕顔に結論付けられると、もう返す言葉がない。
「ところで、高見沢さん、この歌の前に匂宮が、浮舟に歌を送っているでしょ、知ってる?」
高見沢は京都在住のチンピラなサラリーマン、しかし、それはそれなりに無用な教養も身に付けている。
「ああ、確か何かあった事だけは思い出した、えっと、どんな歌だったっけ?」
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊