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いまどき(現時)物語

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「高見沢さん、アンタ、この意味わからないの … ところで、貴方のお住まいはどちらでしたっけ?」と聞いて来る。
「俺か、今京都に住んでるんだけど、そんな事、これと何の関係があると言うんだよ」と、高見沢は戸惑いながら聞き返した。

「しっかりしてよね、高見沢さん、灯台下暮らしだよ、これは源氏物語の宇治十帖よ」と、夕顔は軽蔑顔で応えて来た。

「宇治十帖?」
高見沢は驚いた。
「日本史上で一番過激で美しい悲恋物語よ、これって高見沢さんの地元のお話しでしょ」と、夕顔は教えてくれる。

「えっ、そうか … それでわかったぞ、あの清流に掛かっていた古そうな橋、あれは一千年前の宇治橋だったという事なのか、どっかで見た事がある風景だなあと思ったんだよなあ …

という事は、あの見目麗しの乙女子は、薫(光源氏の子)とその友人匂宮(におうのみや)の恋の波間でゆらゆら揺れたヒロイン … そう、憧れの浮舟だったんだ!」

高見沢は、思い出せなかったあの風景、そしてあの大和撫子が誰なのか、まずはそれらの謎が解け、少し靄が晴れたような気分になって来た。

「そうよ、高見沢さん、宇治川の清流に身を投げた浮舟よ、それを貴方が水火も辞せずで助けて来たのよ、すばらしいわ!」

「そうか、だけどね、この体験てさあ、宇治十帖の世界に入り込んで行ったという事なのか?」
高見沢は、まだ自分の身に何が起こったのか、完全に理解する所までには至っていない。

「紫式部が書いた物語、そのフィクション(虚構)の世界へワープ(時空の移動)して、侵入して行く事って本当に出来るのか?」
高見沢は半信半疑でそう夕顔に尋ねてみた。

「高見沢さん、真実を知らないのね、宇治十帖って、実はノンフィクションなのよ、単に巻物に書かれた物語じゃないわ、今から一千年前、平安時代に本当にあったラブストーリーなのよ」

夕顔が力強く答えるのだった。


作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊