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いまどき(現時)物語

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女性は、こんな高見沢の押し付けがましい励ましの言葉を、なぜか心暖まる好意として感じ取っているようだ。
そして、涙目ながらも微笑み返し、鈴を転がすような声で囁くのだ。

「たちばなのこじまのいろはかはらじをこのうきふねぞゆくえしられぬ」

「はっ?」

沈黙が続く。

今度は、高見沢の方が何の話しなのかさっぱりわからない。
どこかの星からやって来た宇宙人と会話しているような感じに陥る。

「あのー、お姉さんね、今何て言わはったの?

随分難しそうな言葉のようだけど、それって英語でもないし、中国語でもないし、日本の方言でもないようだし、ちょっと通訳いるかもな」

「げに」
女性は高見沢が話す意味を感覚的に理解したのか、頷いている。

「そうだ、このメモ帳に、今言った事、ちょっと書いてくれる」
高見沢はものを書く手振りをして、手帳とペンを渡した。
女性は不思議そうに高見沢の仕草を見ていたが、直ぐにペンを取り、見様見真似で書き込んだ。
そして、そこには見事な達筆で、こう書かれてあったのだ。

〔橘の小島の色は変はらじをこの浮舟ぞ行方知られぬ〕

高見沢は、このメモ書きがあまりの草書であり、読み切れない。
じっと考え込んでいる。

その後は、いつもの動物的勘。


作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊