いまどき(現時)物語
「お嬢さん、お嬢さん、御気分の方は如何ですか?」
高見沢はゆっくりと女性を揺すってみた。
介抱の甲斐あってか、気が付いたようだ。
女性は、珍しいものでも見るかのように高見沢をじっと見つめて来る。
そして、身を震わせながら突然の叫び声。
「もののけ!」
高見沢は「もののけ」と叫ばれて、全くもって何の事かわからない。
しかし、女性の脅えた様子から推察するに、高見沢が怨霊の物の怪と思われている事は確かだと気付いた。
「俺がもののけってか、何でやねん?」
高見沢はメッチャ不服。
「あのね、お姉さん、アンタハンが川に飛び込みはったんやで、
それで水火も辞せずで、俺、溺死する恐怖も何のそので、アンタハンを助けたんやで …
これって、わかってくれてはる?」
女性はきょとんとした表情で、不思議そうに高見沢を見ている。
どうも高見沢が話している事が、よくわからないようだ。
「今まで何があったのか知らないけれどね、折角生き返ったんだから、これがチャンスと思って、今までの悲しい事はきれいさっぱりご破算にして、もう一回シブトク生き直したら、どうだろうか?」
女性は少し意味が理解出来て来ているのか、じっと耳を傾けている。
「ハイハイ、もうここまで来てしまったのだから、
世の中、何があっても恐くない、何があっても驚かない、これが居直り人生の基本だよ、
さあさあ、肩の力を抜いて、気楽に、気楽に!」
高見沢はさすが百戦錬磨の企業戦士、
人生どたん場での脱出方法だけはしっかり会得している。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊