いまどき(現時)物語
「ひぇー」
高見沢は、悲鳴を上げながら女性の傍にどたっと座り込んでしまった。
あまりの突然の出来事で心臓が破裂しそうに踊っている。
疲れがどっと噴き出して来る。
「ああシンド、何だよ、これ … これが水火も辞せずの人助けちゅうやつなんかよ、
東京出張のために着て来たイッチョライのスーツは、水でびしょびしょに濡らしてしまうし、急流に流されそうになるし …
えーい、もう人助けって、懲り懲りだ!」と、高見沢は息荒く唸った。
そんな尖り声を、早瀬の水音が消して行く。
高見沢はもう一度「ふー」と息を吐き、心を落ち着かせる。
女のうなじは水で濡れ、キラキラと柔らかく輝いている。
まだ血の気が引いているのか、その白い柔肌は余計に透き通って見える。
「なんで、こんな見目麗しき乙女子(おとめご)が、川へ飛び込んでしまったんだよ、何か悲しい恋物語でもあったんだろうかなあ?」
女はまだ目を閉じたままだ。
その顔立ちに、そこはかとなく愁いを感じさせる。
高見沢は、「映画の中のヒロインみたいに、綺麗な人だなあ」と、ポーと見入っている。
こんな一息付いた安息の時、高見沢はなぜかはっと我に返った。
「おっと、そうだそうだ、水を吐かさなアカンがな」
少年時代に水練で習った人命救助、それを思い出したのだ。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊