いまどき(現時)物語
第2章 もののけの巻
高見沢はべんがらの格子戸をそっと開き、未体験世界へと入って行った。
今、パープルな光に包まれた回廊を、緊張し注意深く歩き進んでいる。
更に先へ先へと歩み行くと、陽の光が徐々に目に入って来る。
そして、およそ一分は進んだろうか、既にパープルな回廊は消失し、突然に視界の開けた場所へと出てしまった。
そこには、気ままな天涯放浪の果てに出逢うヒール(heal : 癒し)な自然の風景があった。
高見沢はここに至るまでの慌ただしさを反省し、少し冷静になろうとしている。
今自分がどこにいるのか、その位置確認から始める。
目の前に大きな川が流れている。
どうも川原に一人立っているようだ。
更に状況を把握するため、仔細に周りの風景を眺めてみる。
青く深い淵や白く泡立つ早瀬、水量多くとうとうと流れ行く清流がある。
その背景となる山々は、目に突き刺さり痛いほどの青葉を一杯に溢れさせている。
そしてその緑を、激しく川面まで押し出させているのだ。
まさに郁郁青青(いくいくせいせい)。
だが、不思議な事だ。
なぜか懐かしさを、高見沢は感じている。
「えっとえっと、どっかで見たような風景だよなあ」
目映いばかりの初夏の勢いに圧倒されているのか、脳がうまく回転しない。
ここがどこなのか思い出せないのだ。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊