いまどき(現時)物語
夕顔が今度は少し威厳を付けるかのように、声のトーンを落とし話し出す。
「水火も辞せずって言う体験プログラムがあります、
献身的な行動で人を助ける、そんな気高き体験が出来ます、これが本日の一番のお薦めよ、挑戦してみる気ある?」
高見沢は、一度はやってみたいと思っていた人助け。
そして、根っから単純男なのか、急に心の突っかかりが取れたように表情が明るくなって来た。
「オーイエス、水火も辞せずね、水も火もものともせずに俺がこの手で人を助けるってか、身を挺しての人命救助、後で市長さんから感謝状がもらえるやつだな、それを是非とも体験してみたい、ヨッシャ、やらかしてみるぞ」と随分勢いが付いて来た。
しかし、さすが夕顔、今度は高見沢が舞い上がり過ぎないように、諭すように注意して来る。
「ちょっと高見沢さん、あまりイチビッたらダメよ、気持ちを落ち着かせなさいよ、いい、これだけは守って頂戴ね、一時間経ったら必ず戻って来るのよ、そうでないと、あちらの世界に一生居残りになるからね」
「えっ、たったの一時間、そんなん無理だよ、人命救助だろ、少なくとも半日はかかるんとチャウんか?」と不満気だ。
「何言ってんのよ、貧乏暇なしの高見沢さん、前置きとか後段とか、そんなまどろっこしい事は抜きで行きましょ、そのものズバリの人助け、エッセンスだけよ、一時間だけで充分満足頂けるわ」
「そらそうだね、今も出張中だし、ウダウダ時間を潰している暇なんかないよなあ、されど忙中に閑あり、夕顔はん、水火も辞せずの世界にワープ出来て、崇高な気分で帰って来れるんだな?」
高見沢は最後の念押しをした。
「そうどすエ」
夕顔からきっぱりとした一発返事。
「夕顔はん、それじゃ、いざ旅立ち!」
高見沢は決心し、 間髪入れずの行動開始だ。
「一路平安、おはようおかえり!」
夕顔は白い二の腕までもちらつかせながら、手を振って見送ってくれている。
高見沢は笑みを返し、胸を張って究極ハッピー・ワールドへと入場して行ったのだった。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊