いまどき(現時)物語
「それじゃ、高見沢さん、本当にハッピーな気持ちになるためには何が体験したいの、遠慮なく言ってみて」と、夕顔がまじめに聞いて来た。
「そうだなあ、俺、もっと心が爽やかになる事を体験したいよなあ」と高見沢はしみじみと呟く。
「なるほど、ベテラン・サラリーマン男、血と汗と涙の果てに、最終的にはヤッパそこんとこに来ますか?
世俗でドロドロ生き抜いて来た高見沢さんが、清々しい体験を欲する気持ち、何となくわかるような気がするわ、了解しました」
夕顔は一所懸命考え出している。
暫くし、「それでは御希望にお応え致しましょう、宜しいでしょうか、言いますよ」と、新しいお薦め案をもったい付けて提案して来るのだ。
「おいおい、じらさずにさっさと言いなよ」
夕顔はきりっと姿勢を正し、そして言い切るのだ。
「それは、人助けです」
しばし二人の間に沈黙の時が流れる。
そして高見沢は、「人助け!」と大きく叫んでしまうのだった。
まさに目から鱗が落ちる思い。
いやいや、もっと正確に言えば、鱗から目が落ちる驚きもある。
「おお、いいじゃん、いいじゃん、俺が求めて来たものは人助けだったんだ、鱗から目が落ちるよ」と、えらく前向きだが、やっぱり一種の発狂状態。
「高見沢さんて、今まで人を助けた事って一度もなかったでしょ」
夕顔は追い打ちをかけるようにずばり言って来る。
「その通り、皆無だよなあ、人助けってホント未体験だよ、それが我が人生の未練だったんだ」
「じゃあ、飛び切り上等プログラムをお薦めしましょう」
我が意を得たりの高見沢は、「よっしゃわかった、よろしくね」とどんどん乗り気になって行く。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊