いまどき(現時)物語
高見沢は苛立って来たのか、声を荒げて言い切るのだ。
「儚(はかな)くも二十一世紀現代サラリーマン、針の筵の上で切腹させられそうな毎日なんだ、そうなんだよ、俺は蛇に睨まれたカエルの油汗人生、それが紛れもない現実なんだ!」
夕顔は、こんな支離滅裂で論理性もない高見沢の雄叫びにびっくりする。
そして、その迫力に押されてしまったのか、「このオヤジ、結構五月蝿いわね」と呟いている。
後は、三つの骨っぽい体験を薦める事を諦めたのか、
「そこまで思い込みだけの自虐的自己主張されるのでしたら、仕方ないわね、じゃあ、明るい体験ものがお好みなのね、別のものを紹介するわ」と、夕顔が再提案して来る。
「はい、おネエーさん、頼むからそうして下さい」と、高見沢は懇願一色。
「それじゃ、本日一番のお薦めね、ようく聞いてよ、言うわよ」
「よっしゃ、言ってみて」
「しゅちにくりん … こんな体験、どうお?」
夕顔は自信満々のようだ。
高見沢は「しゅちにくりん」と聞いて、直ぐにその意味がピンと来ない。
漢字が思い出せないのだ。
「えーと、えーと、しゅちにくりんねぇ … それは、酒の池、そして肉の林だったっけ」
頭の中で四字熟語を組み立てている。
そして、恐る恐る聞いてみる。
「あのおー、夕顔はん、
酒池肉林てさあ、明るくって楽しいというジャンルとちょっと意味合いが違うんじゃない?
それって、大酒飲んで、ベロンベロンに酔っぱらって、スケベな出来事が一杯あって …
大変喜ばしい事かと思うんですが … 」
「多分、そういう事かもね」と、夕顔は澄ましている。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊