いまどき(現時)物語
夕顔は、ニコッと笑みを浮かべながら、
「そうね、一つ目は艱難辛苦(かんなんしんく)を体験するプログラムよ、これ結構歯ごたえあるわよね、
二つ目はどこを向いても敵ばっかりの四面楚歌、面白そうでしょ、
三つ目はキズだらけの人生、心身ズタズタの満身創痍(まんしんそうい)の世界よ、
極楽トンボの高見沢さん、今までの人生の中で、これらの事どれも体験した事なかったでしょ …
さっ、どれがお好み?」と実に嬉しそうだ。
高見沢はこれを聞いて、「とんでもない」と身をのけ反らした。
ハッピーどころか、確実に苦痛を喰らうメニューばかりだ。
「うっうっ」と息が詰まりそうで、返す言葉がなかなか見付からない。
そして、腹立たしさだけが沸き立って来る。
高見沢はそれを抑えながら夕顔にやっと答える。
「何なんだよ、お姉さん、俺の事、ちょっと誤解してるんじゃない?
苦労ばかりが多くて、最近野壷にはまったような状態やで、メッチャ落ち込んでいるんだよ、
艱難辛苦に四面楚歌、その上に満身創痍 …
あんね、アンタ、自慢じゃないけどね、十年前もそうだったし、三年前も一年前もそうだったの、それに昨日も今日も明日も疲労困憊なの、
血と汗と涙のサラリーマン滅私奉公なんだよ、お願いだからこの不幸な状態を少しはわかってよ」と、最後は訴え口調だ。
夕顔はじっと聞いていたが、疑いの目付きで返答一発。
「ウッソー!」
高見沢は、もうどう説明したら良いのかわからない。
今度は、夕顔に手を合わせて懇願している。
「頼む、そんな地獄メニューはカンニンしてよ、とにかく一万円も払ったんだから、もうちょっと明るくって楽しい体験ものを選んでよ、ねっ、夕ちゃん、お願い」
「えっ、そうなの?
深層心理では、昇り来る朝日に向かって、多事多難の苦労も何のその、力強く打ち勝って前向きに生きて行く、そんな男っぽくって骨っぽい体験をしてみたいと思っていたんじゃないの?」と、夕顔はまだ疑っている。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊