いまどき(現時)物語
三室戸寺、それは宇治川の東の山沿いに位置する西国十番目の寺。
別名花の寺とも呼ばれ、六月ともなれば、紫陽花が境内一杯に咲く。
夜はライトアップされ、そこに幽玄の世界が現出する。
高見沢と浮舟は、今、この淡いパープル色に咲き乱れた紫陽花の中をゆっくりと歩いている。
高見沢はおもむろに浮舟に語りかける。
「浮舟、気持ちの整理は付いたか、予想はしていたが、小夜子花の話しはちょっときつかったなあ、
結局、椿子から桜木を返して下さいという小夜子花から朝霧への一言、それが最初のドミノの駒で、後は連鎖で全て崩壊した、そして小夜子花だけが生き残った」
浮舟は紫陽花の水滴を一つ一つ優しく払い落としている。
そして落ち行く水玉を目で追いながら、ポツリポツリと。
「小夜子花の女の一念、
そのシナリオ通りだったのね、
それは全てを壊してしまい、
そして新たな愛を育む、
そういう事だったのよね」
高見沢は愛憎が織りなす現代社会に、無情さを感じつつも、
「まあ、大した事ないよ、これが人間社会の単なる一面だ、そう思って、さらっと受け止めておいた方が良いよ」と、女影武者の最初の御主人様として軽く言い放つ。
浮舟も重い気持ちを吹っ切らせ、柔らかく微笑みを返して来る。
「高見沢さん、ありがとう、私、もうぜんぜん大丈夫よ、
男と女の気持ちの絡み合い、一千年前の平安時代も、この現代も同じだわ」
高見沢は、浮舟の力強い立ち直りを感じ、気が楽になる。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊