いまどき(現時)物語
第11章 私の歌の巻
高見沢と浮舟の二人は、今全身に疲れを滲ませながらトボトボと歩いている。
細身で如何にもひ弱なそうな小夜子花。
しかし、そこに秘められた愛と憎悪のおどろおどろしさが、
二人の心の奥底に、まるで鉛のようにどーんと溜まってしまったようだ。
二人の間には、会話を弾ませる言葉が出て来ない。
だが高見沢は、浮舟がこの現代社会でしっかり生きて行けるようにサポートせよと、卑弥呼女王から指示を受けている。
力強くあるべきはずの人生の師匠が気落ちしているようでは、その責任が果たせない。
「浮舟よ、女影武者の初仕事としては、ちょっと重かったかも知れないなあ」と、高見沢は会話の口火を切った。
「そうね、だけど、これも明日に向かっての修練だったのよ」
「まあポジティブに考えようか、それで、これからどうしたいの?」
「高見沢さん、私ね、宇治に三室戸寺(みむろどじ)ってあるでしょ、気晴らしにそこへ行ってみたいの、連れて行って下さる」
浮舟は恐怖心を払拭したいのだろう、そのリフレッシュにと、かって一千年前に過ごした辺りを散策する事を請うて来た。
「よっしゃ、行ってみるか、丁度紫陽花の時節だし、それに、そこからぶらっと歩いて宇治橋を渡ってみないか?」
「嬉しいわ、私が一千年前に身を投げた場所ね、
もののけ高見沢さんが助けてくれたから、現代への夢浮橋を渡って来れたし、随分強く生きられるようにもなったわ、多分これからも大丈夫だと思う、さあ連れて行って下さい」
二人は急に思い立ち、京都東山から宇治に向かう事としたのだ。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊