いまどき(現時)物語
「奥様、何と仰ったのですか?」
高見沢も浮舟も耳をそばだてている。
そして小夜子花は、少し湿りのある声で。
「もうそろそろ、桜木を … 私の元へ返して下さいと」
高見沢の問いかけがもう止まらない。
「へえ、そうなのですか、返して下さいとお話しされたのですね、
それで、朝霧様はどう答えられたのですか?」
小夜子花は、それに実に淡々と。
「初め何の事かわからない御様子でしたわ、反対に、どういう事ですかって聞き返されました、
それで私、たった一言だけ付け加え申し上げたのですよ」
「何と仰られたのですか?」
「奥様の椿子様からって」
高見沢も浮舟も、小夜子花から発せられたこの深い一言を、ただただ受け止めるしかない。
「そうですか、椿子様からって、それで朝霧様はどういう反応されました?」
「そうですね、朝霧様は、奥様と桜木との関係の事は御存知なかったようで、大変驚かれた御様子でした、
暫らく黙っておられましたけれど、それでも最後に、わかりましたって仰って頂きましたわ … それで、私、安心していたのですが」
小夜子花は自分で何かを納得するように一人頷いている。
そして、鈴が鳴るような声で、驚くべき事を呟くのだ。
「椿子は、高校時代から、いつもそうだったのですよ、
人の持ち物が欲しくなるんだから … 本当に馬鹿な子ね」
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊