いまどき(現時)物語
高見沢と浮舟は、京都東山にある桜木の家を訪ねた。
もちろん葬儀は疾(と)うに終わっていた。
そのためか、その騒然さは去り、住まいは静かな佇(たたず)まいの中にあった。
高見沢は少し緊張気味に呼び鈴を押した。
インターホンでのやりとりの後、暫らくして玄関が開けられ、小夜子花が現れた。
夫・桜木の不幸な死の後なのか、小夜子花の表情には憔悴し切った様子が伺えられる。
しかし細身の身体ではあるが、女の気丈さが漂って来る。
「この度は、大変御不幸な事となり、御愁傷様です、どうかお気落しのないように」
高見沢は通り一遍の悔やみを申し述べた。
小夜子花は「はい、誠にありがとうございます」と軽く返し、目を伏せながら深々と頭を下げた。
「紹介が遅れましたが、私、故人・桜木様の生前に、会社の関係で親しくお付き合いさせて頂いていた高見沢と申します、それとこちらの者が浮舟でございます、
故人の御冥福を祈るため、御仏前にお線香でもと思い、突然ですが、お伺いさせてもらいました、よろしいでしょうか?」
小夜子花は急な申し入れに少し戸惑っているようだ。
しかし、「それはそれは御丁寧に、まだ片付いておりませんが、それでよろしければ、どうぞお上がり下さいませ、桜木も喜ぶと思いますわ」と返して来て、家の中へと二人を招き入れてくれた。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊