いまどき(現時)物語
「多分、最初に桜木を殺害した犯人は、上司の朝霧だと思うよ、
そして、その朝霧を殺したのは、不倫相手の可奈子だよ、
その一週間後に、
可奈子を毒殺してしまったのが、朝霧の妻の椿子、
そしてその後、椿子は自殺をはかった、
これが僕の推理だよ」
「私の推理と同じだわ、
だけどこの不幸の始まり、つまり桜木を殺した上司・朝霧の動機は一体何だったんでしょうね」
浮舟が疑問をぶつけて来る。
「朝霧は、妻・椿子と桜木との不倫関係、それに朝霧の女性問題を強請っているのが桜木、多分それらを知ってしまったんだろうなあ」
「それが、最初の不幸のドミノの駒で、そこから倒れて行ったという事なのね」
「朝霧が妻の秘密を今まで知っていなかったからこそ、この愛と憎悪の四人の危険な関係が、あるバランスもって保たれて来ていた、
しかし、朝霧がもう一度妻とやり直してみようと思った矢先に、完全に卑下していた桜木と、妻は長年よろしくやっていた、
妻の心は奪われてしまっていたんだよ、
その上にだね、朝霧と可奈子の不貞の強請りの犯人が、桜木であろうと確信してしまえば、朝霧はもう桜木を許せなかったのじゃないかなあ」
「だけど、四人の関係の原点は、朝霧自身の不倫にあるのよ、朝霧は大人でしょ、
それでも妻の不倫、そこまでは飲み込めなかったのね」
浮舟がやっと自分の意見を述べた。
「気位の高い朝霧だから、今まで部下として使い、さげすみもして来た男に舐められたと思ったんだろうなあ、
そして、未来のない四人の愛と憎悪の関係を知ってしまった、
何と言うか、大袈裟だけど、男の人生の破局を感じたのかも知れないなあ」
浮舟は高見沢の推察を聞いてみたものの、それはまだ納得の行くものではなかった。
「うーん、高見沢さん、それだけじゃないと私思うの … 他に何かがあったのよ」
「確かに、何かがね?」
高見沢自身も自分の推理が充分でない事を理解出来ている。
「高見沢さん、もし、朝霧がなぜそんな行動に突如出てしまったのか、
その出発点さえわかれば、連続的に壊れて行く過程がはっきりと読めるのでしょうね」
「その通りだよ、だけど、それを置いといて、その先の事件を推理すれは …
まずは恋の闇に陥っていた可奈子だけど、
朝霧との関係が最近冷えて来た、朝霧の出世のために邪魔者のように扱われ出した、
そんな事もあり、最近桜木に心変わりし、将来を掛けてみようと思っていた、
だが朝霧がそんな桜木を殺害してしまった、これはもう絶対に許せない、
可奈子は、憎い朝霧をホテルに呼び出し、そしてナイフで刺してしまったんだよ」
「ここのところの動機は、なんとなく理解出来るわ」
浮舟は女心の儚さがわかるのか、納得しているようだ。
作品名:いまどき(現時)物語 作家名:鮎風 遊